自作マニアを自任している親父ロードライダーです。秋葉原で面白い部品や小物を見つけると、当面の利用予定もなく買い込んでしまう悪い癖があります。両面テープで貼り付けられる薄型感圧センサー、乾電池二本で駆動できるマイコン(PICAXE:ピカクスと読みます)、それに赤・黄二色の超高輝度LEDがありましたので、何か作れないか思案してみたところ、自転車用のブレーキ・ウィンカーランプに挑戦してみることにしました。
要不要を考えずに先に作ってしまう自作マニアの悪い癖
数年前に大型バイクにリターンして以来、重量級のマシンを自在に操る楽しさにも目覚めてしまいました。オートバイではブレーキランプやウィンカーは法律で定められた灯火類ですので付いているのが当たり前ですが、ロードバイクにはありません。サイクリングロードや里山中心に走っている時にはほとんど必要性を感じませんが、たまに国道を使って都心部に出る際にはあったら便利だろうなと思う時があります。とりあえず持っている部品を組み合わせて、実用的なものが作れるかどうか挑戦したいという自作マニアの習性で試作してみたのがこれです。
試作したロードバイク用ブレーキ・ウィンカーランプ(ケースに組み込む前の段階) |
取り付け場所についてはだいぶ悩みましたが、ブレーキ操作によりランプが点くこと、進行方向の前後からウィンカーが視認できることを優先してハンドルバーエンドに取り付けられるよう設計しました。
ハンドルバーエンドにこんなイメージで取り付ける |
後方から赤色LEDのブレーキランプが見えるようにします。ウィンカーは自転車の前後から見えるよう二箇所に黄色LEDを取り付けます。車のランプ類にLEDが使われるようになって、超高輝度LEDの価格が安くなりました。日中でも十分に確認できるほどの明るさがあり、乾電池二本で動作させられます。ブレーキが操作されたことの検知は、ブレーキレバーの隙間に両面テープで貼り付けられる感圧センサーで行います。さらに、左右のウィンカーの点灯をブラケットカバーの中に隠した感圧センサーで操作します。
薄く、両面テープで貼り付け可能な感圧センサーでブレーキランプとウィンカーを操作 |
片側だけのブレーキ操作でも左右両方のブレーキランプを同時点灯させたり、片側ウィンカーの点滅中に反対側に変えた時に、点いていた方を停止し反対側を点滅させられるよう左右の制御ユニット間をRS232Cで通信させます。こうすることにより、プログラム次第でハザードランプのような点灯方法も可能になりました。左右のマイコン間を繋ぐ信号ケーブルや電源になる単四電池二本は全てハンドルバーの中に収めてしまいます。ハンドルバーの内径を測ってみると21mmありましたので、その太さに収まる電池ケースを探しましたが見つかりません。仕方がないのでハンドルバーに収納できる特殊仕様の電池ケースも3Dプリンターで自作しました。
横方向のサイズが21mmを切る自作電池ケース |
さあ完成です。実際にハンドルバーに取り付けるケースを3Dプリンターで作る前に、バラック状態でテストしてみましたが、いい感じで機能しています。左右どちらかのブレーキレバーを少しでも握ると左右両方のブレーキランプが同時に点灯してくれます。ソフトウェアで制御していますから、消灯までの時間を長めにしました。短いブレーキ操作でも後方から確認しやすいように長めの時間点灯します。ウィンカーを点灯後に消し忘れるのは車やバイクでもよくあります。ウィンカーは点灯後、何も操作されなければ10秒後に自動で消灯するようにしました。あとは実際に利用しながら微調整を行えばいい段階まできましたが、ここでふと我に返ります。
ブレーキランプやウィンカーは本当に自転車で役に立つ?
法律では自転車でも停止時や右左折時には合図が必要なことになっています。大抵はハンドサインで合図を行なっていますが、急ブレーキが必要な時などは片手を離す余裕がありません。また、ハンドサインは短時間で終わってしまいますが、少し長い間サインを出していた方が良さそうな場面もあります。信号待ち中に右左折の合図をしたい場合などです。これらのような状況では車と同様のブレーキランプやウィンカーが役に立ちそうです。
車の多い市街地を走る際にはブレーキランプやウィンカーは役に立ちそう |
集団走行している際にも、前を走る自転車がブレーキ操作を開始したのかどうかが判断できれば後ろの人たちは心構えができます。ウィンカーなどの合図を使う使わないの判断は走る際の状況によると思いますが、安価でスマートに取付けられるランプであれば付いているに越したことはないと思うようになってきました。もちろん夜間はテールランプ(ポジションランプ、車幅灯)としての利用が可能ですので、無駄にはなりません。問題はその「安価でスマートに取り付け可能」ということです。
色々ある自転車用ブレーキランプ・ウィンカー
色々な市販品やKickstarterなどで資金を募っているコンセプトモデルを見てみると、実にバラエティーに富んでいます。ハンドルに取り付けたスイッチから長いケーブルを経由してシートポストにあるランプ類をコントロールする単純なものや、ケーブルの代わりに無線で信号を送るもの、内蔵された加速度センサーが減速時の加速度を検知して自動でブレーキランプを点けるものなど様々です。それぞれの機能により取り付けられる場所にも違いが出てきます。取り付け場所を選ぶ際に考慮が必要な技術的なポイントは、
- ウィンカー操作は何処でどのように行うか?
- ブレーキの検知方法は?
- 電力をどのように供給するか?
という三点かと思います。もちろん見易さも重要ですので、技術的な課題と同時に考慮して決めます。センサーや操作ボタンとランプを無線で繋ぐ方法は、取り付け場所の自由度が一気に増しますが、無線デバイスが高価でバッテリーの持ち時間も短くなってしまいます。ランプやセンサー・スイッチ類が近い場所に設置できるハンドルバーエンドを今回選んだのはそのためです。
ブレーキ(テール)ランプとウィンカーの取付け位置候補 |
さらに注意が必要なのは、車やオートバイのブレーキランプはドライバーがブレーキ操作を開始したことを後続車に知らせる役目を果たしていることです。決して速度が落ちたことを知らせているわけではありません。加速度センサーを使って明るさを増減させる自転車用テールランプが売られ始めましたが、これは決してブレーキランプと呼んではいけません。何故なら、このランプが点灯した時には既に減速が始まっていますし、ブレーキ操作をしたからといって必ず点灯する保証はないからです。今回使用したブレーキレバーに感圧センサーを貼り付ける方法では、レバーの動きがまだ遊びの段階でランプを点灯させることができます。
加速度センサーを使った試作品で実感した限界
三軸加速度センサーの値段が下がり、これを使って自動ブレーキランプを実現できないだろうかと開発に取り組んだことがあります。
加速度センサー式ブレーキランプ試作一号機(左)・二号機(右) |
初めて使うデバイスであったこともありますが、走行時の振動からくる測定値のノイズや坂道での重力の影響排除などかなり難しい処理が必要になりました。試行錯誤を繰り返して、なんとか減速時の進行方向へのマイナス加速度を見極めるところまでできましたが、実際の走行試験ではどうしてもブレーキ操作開始からランプ点灯までタイムラグが出ます。
実際の走行中にGoProで撮影しながら試作品のテストを繰り返し実施 |
判断のためのパラメータや加速度計算のロジックなどを色々変えながら、実走行テストを繰り返して得られた結論は「加速度センサーで得られた数値からブレーキ操作の開始を検知することは困難」というものでした。ブレーキ操作の結果として減速が始まったことを検知するのが精一杯という結論です。デバイスや回路設計の専門家が行えばもっと違った結果になるのかもしれませんが、そもそも時間軸で考えてみれば当たり前の結果に思えてきました。結局この試作品は、「自動で注意喚起を促すことができるテールランプ」という位置付けになっています。いっそのこと、ブレーキレバー全体に感圧センサーを貼り付けて、ブレーキに力を入れ始めたらランプが点くようにした方が、よほど本来のブレーキランプらしい動作をするように思えてきました。
試作品が完成して満足してしまう自作マニアの悪い癖
実は、完成したブレーキ・ウィンカーランプはまだ自転車に装着されていません。ハンドルバー内の配線やブレーキレバーに感圧センサーを貼り付けるのに、バーテープを剥がしてやる必要があるためです。次回のバーテープの交換の際に組み込んでみようと思っていますが、これって目標であった「スマートに取り付けられる」のとは一線を画しています。自作マニアを自他共に認めてもらえるのはまだまだのようです。精進を続けたいと思います。