千葉県に居を構えてからだいぶ経ちます。近所の酒屋でたまたま見つけた千葉の地酒を飲んでみたら、これが結構旨い。全国的に有名な地酒と比べても負けていません。住んでいる地元の日本酒に俄然興味が湧き、探して買い求めるようになりました。
千葉県酒造組合のホームページで情報収集
千葉県内において清酒、焼酎乙類及びみりんを製造する酒類製造業者の団体として千葉県酒造組合が設立され、千葉市中央区に事務所を置いています。
組合のホームページを見ると、平成28年4月時点で40社が組合員として加盟しています。そのうちの4社は千葉県内に工場を持っている全国規模の大手酒造メーカーです。宝酒造、合同酒精、ニッカウヰスキー、流山キッコーマンの4社で、千葉の地酒と呼べる日本酒の蔵元は残りの36社ということになります。うち一社は二つの蔵元が合併したもので、酒蔵としては別々の場所にあります。つまり千葉県酒造組合に加盟している地酒の酒蔵は37軒あることになります。
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千葉県の地酒の蔵元36社、37軒 |
いい歳をして大型バイクにリターンしてからというもの、
房総ツーリングのついでに酒蔵に立ち寄っては近所の酒屋では手に入らない千葉の地酒を買って帰るようになりました。どうしても見つからない二つの酒蔵を除く35軒は全てバイクで訪問済みです。
季節毎に違う味が楽しめる房総の地酒
バイクで房総の蔵元を巡り始めて足掛け三年、蔵元を度々訪れるようになると、季節毎に違った酒が作られていることがわかりました。一年を通して入手可能な商品もあれば、年末から初春に出荷されるしぼりたて新酒や暑い夏にも楽しめる夏吟醸、食欲の秋にぴったりのひやおろしなど、その季節でなければ手に入らない酒もあります。知れば知るほど日本酒の奥深さに魅了されていきました。
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酒米の収穫から始まる日本酒の四季 |
1. 年末から春はしぼりたて新酒の季節
秋に収穫した酒米を使って、気温が低くなってから仕込みを開始します。その年の10月ごろに仕込みを始め、11月には新酒を出荷する早い蔵もありますが、ほとんどの蔵元ではお正月需要に間に合うように12月末の出荷を目指して仕込みを行なっています。中には気温が一番低くなる1〜2月を待って仕込みを始める蔵もあり、その場合は新酒が楽しめるのは3月以降です。とにかく年末から春までは各蔵から出荷されるしぼりたて新酒を次から次に飲みまくりです。
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しぼり方にも気を遣っている各蔵のしぼりたて新酒 |
できたての味を届けようと、火入れや濾過・加水などの処理を省いて瓶詰めされた酒はまさに「しぼりたて」新酒です。酒槽しぼりや袋(吊るし)しぼりなどと呼ばれる手間と時間のかかる搾りかたをしたものもあり、それぞれの味の違いを楽しめるのもこの時期ならでは。槽口(ふなぐち)と呼ばれるしぼり器の口から流れ出た酒を、そのまま瓶詰めした直詰め生酒などは、醪(もろみ)に残っている微炭酸がそのまま含まれていて、口に含むとピチピチとした新酒の勢いまで感じられます。
2. 低温でゆっくり醸した夏吟醸
もともと吟醸酒はゆっくり時間をかけて醸造される日本酒ですが、出荷時期が夏場になるように低温のタンクで作られたものが夏吟醸です。暑い時期でも飲みやすいように低めのアルコール度数で、冷蔵庫で冷やして楽しめる夏向きの日本酒です。
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枝豆をつまみに冷やして楽しむ夏吟醸は暑い日でも旨い |
夏吟醸を知ってからはビールの消費量が減りました。酒蔵巡りをするようになる前は、夏場に日本酒など考えもしませんでしたが、冷蔵庫で瓶ごと冷やした夏吟醸は今やなくてはならない夏の友です。
3. 食欲の秋にはひやおろし(秋あがり)
春先にできた酒を火入れしてからタンクで一夏貯蔵し、熟成が進んだ秋口に二度目の火入れをしないでそのまま瓶詰めされたものがひやおろしです。一度目の火入れもせずに生のまま熟成して出荷するものなど蔵によって色々なバリエーションがあり、秋あがりと呼ばれることもある一夏熟成の酒です。千葉県酒造組合では9月に解禁日を設けて一斉に出荷を開始しているようで、飲む方も一気に忙しくなります。昨年は14の蔵元の15種のひやおろし(秋あがり)を立て続けに楽しむことができました。
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房総の各蔵元から一気に出てくるひやおろし(秋あがり) |
実りの秋の食材を肴に、旨味の増したひやおろしを愉しむのは日本酒好きにはたまりません。冷やから燗までいける酒ですので、色々な料理にマッチします。各蔵元から一斉に出てくるため、飲み比べてみるのも一興です。
4. 燗酒推奨の日本酒も旨い
タンク貯蔵の前後に火入れを行う通年商品は貯蔵中に熟成が進み、新酒の荒々しさが取れて旨味が増しています。冷やから熱燗まで色々な楽しみ方ができる酒ですが、蔵元で燗酒に合うようにして出荷される日本酒もありました。
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寒い時期の燗酒は格別 |
バイクツーリングで冷え切った体に熱燗を流し込む瞬間は至福の時です。「燗酒純米」と書かれたものや燗酒コンテスト金賞のラベルがつけられたものまで、寒い時期には酒瓶を見ただけでよだれが出そうです。
こちらから出向かなければ出会えなかった房総の酒
今は休業中なのか、どうしても見つからない2軒の蔵元を除く34軒を巡って思うのは、そこで作られている日本酒のほとんどは、こちらから出向かなければ出会うことがなかっただろうということです。中には近所のスーパーでよく見かける銘柄もありましたし、デパ地下などにある酒専門店でも複数の千葉の酒が置いてあります。しかし、日持ちのしない季節限定酒などはめったに見かけません。「初しぼり」と名付けられたその年の最初のしぼりたて新酒や強い発泡の続いている活性酒などは、鮮度を保つのが難しいためかめったに置いてありません。ちょうど出荷が始まる頃を見計らって、こちらから蔵元に出向いて買い求めるしかありません。
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酒蔵で偶然出会った個性的な房総の酒 |
デパートなどで時々開かれる試飲会は蔵元の人が直接製品を紹介してくれる絶好の機会ですが、ある程度人のいる規模の蔵でないと実施するのは難しいようです。出荷量の少ない蔵の酒は、大半が地元の飲食店に卸されて都市部の酒屋まで流通してくることは稀です。やはりこちらから出向くのが一番で、できたばかりの個性的な酒に出会えた時の喜びはひとしおです。
酒蔵の置かれた状況は厳しい
訪問した34社の蔵元の中で、販売店を併設し目立つ看板を出しているところはそう多くはありません。ほとんどは蔵の一部か母屋で販売もしてくれますが、看板もなくたどり着くのに苦労します。煙突が途中から切られている蔵元にお邪魔した時には、蔵のご夫婦が『後継ぎがいないため、製造は大手に委託している』とおっしゃっていました。観光バスも停められる大きな駐車場を用意して観光客を呼び込んでいる蔵元もあれば、今の代で終わりと考えている小さな蔵元まで色々です。
そもそも酒の消費量が落ち込んでいる中で、日本酒の比率はどんどん下がっています。さらに二十代の若者が酒を飲まなくなっていますので、今後も消費量の拡大は期待薄です。販売店を併設しているような大きい蔵元は、直販やインターネット通販に力を入れたり海外への販路開拓を狙っているようですが、小規模な蔵元は将来どうなってしまうのでしょう。
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出典:国税庁「酒のしおり」平成28年3月版 |
でも希望は持ちたいものです。訪問した酒蔵の中には若い杜氏が新しい酒作りにチャレンジしているところもありました。ワイン酵母を使った日本酒作りにチャレンジしていたり、酒米の栽培から取り組んでいるところもあり、販売量の確保のみではない生き残りへの模索を感じます。寒空の下、バイクで酒を買いにくる珍しい客のためか、蔵の方々との会話が弾みます。旨そうな日本酒を前にして交わした会話が帰宅後の何よりの酒の肴になっています。
房総の酒蔵35軒を巡った記録動画
バイクツーリングで房総の各地を巡り、ついでに酒蔵まで訪問してきた足掛け三年を動画にまとめました。どんな場所にどんな酒蔵があるのかがわかると思います。房総へドライブにお出かけの際には是非お立ち寄りを。旨い地酒が待ってますよ〜