2017年6月9日金曜日

快適動画編集 方位磁石のジェネレータテンプレートをMotion5で作成


 オートバイや自転車でのツーリング動画を編集する際に、走っている場所を俯瞰した映像が欲しい場合があります。ドローンで空撮できればいいのですが、まだ持っていませんし、走りながらのドローン撮影はいつもソロの私にはかなり困難です。代りにGoogle Earth Proのツアー動画をしばしば利用しています。GPSの軌跡ログを与えてやると、指定した高度と角度で地上を撮影したような動画を生成してくれます。縮尺によっては本物の空撮映像と見間違えるほどのクオリティーで動画素材が作れるため、GoProなどで撮影した実写映像と組み合わせて、実際には体験できない映像の世界を実現できます。大変便利なGoogle Earth Proですが、一つだけ不便だと思う時があります。ぐるぐると回転しているうちに、方向がわからなくなってしまうことです。映像内にコンパス(方位磁石)を表示できれば、どの方向に進んでいるのかが一目瞭然です。

Google Earth Proのツアー動画にコンパスを表示してみた

イラスト作成ソフトで描いた方位磁石イメージをFinal Cut Pro X(FCPX)に読み込ませ、大きさと角度を調整して貼り付けます。映像に合わせて自動で方向が変われば完璧ですが、Google Earthから画像の方位情報が入手できないため不可能です。このやり方で編集していて気になったのは、磁針を回転させると方位を示す文字の向きも変わってしまうことです。手動とはいえ、もう少しスマートに利用できる方位磁石が欲しくなり、Motion5を使ってFCPX用のジェネレータテンプレートを作成してみました。


回転させても文字が正しい向きになる方位磁石が目標


 磁針の回転もFCPXが標準で持っている画像の回転を使うのではなく、テンプレートの回転パラメータで指定できるとスマートです。どんなに回転させても、方位を示す文字(E/W/S/N)は必ず正しい向きで表示されるようにします。よくあるコンパスのように丸い外枠の有無を選択できると、使える場面が広がりそうです。こんなイメージでデザインして、出来上がったのが下の図にある右側の方位磁石です。南北が通常と反対の向きになっていますが、方位を示す文字はちゃんと読める向きに表示されています。

作成したジェネレータテンプレートで表示した方位磁石(右)

1. 外枠と磁針を描き、方位文字を入れる


 Motion5の新規作成画面からFCPジェネレータの作成を選びます。時間やフレームレートは今回関係ありませんが、よく使う3秒と29.97fpsでも入れておきましょう。回転しない「外枠」グループと回転する磁針・方位文字を含んだ「回転対象」グループの二つに分けます。まず外枠用のグループを作成して、その中に大き目の円を描きます。好きな色で構いませんが、円の中は塗りつぶしておきましょう。グループの名称は自由ですが、ビヘイビアなどでの参照時にこのグループ名が使われますので間違えないようにします。

まずコンパスの外枠を作成

続いて回転対象グループを作成し、その中に磁針と方位文字の二つのグループを作成します。磁針グループの中に、どんな方法でも構いませんが見易い磁針を置きます。赤と白の二つの三角形をくっつけて磁針にしました。外枠円の中心になるように配置します。単純な図形ですが、イラスト作成ソフトで描いてからイメージを読み込ませた方が簡単かもしれません。

三角形二つで磁針を描画

方位文字グループの中に、適当な大きさで東西南北の方位を示す文字を置きます。英字でも漢字でも構いません。

東西南北を示す文字を配置

2. 回転の中心となるアンカーポイントを調整


 回転するオブジェクトの場合、回転の軸となるアンカーポイントの位置が重要です。回転対象グループのアンカーポイントを回転の中心にセットしておかなければなりません。初期状態ではオブジェクトの端の方にアンカーポイントがセットされていますので、アンカーポイント編集モードに入り正しい位置まで移動します。これで磁針の中央を軸として方位文字と一緒に正しく回転してくれるようになります。

回転するオブジェクトのアンカーポイントを中心にセット

さらに四つの方位文字は回転対象グループから独立して回転しますので、それぞれの文字のアンカーポイントも中心にしておきます。どこが中心か厳密には判断できませんが、だいたいで大丈夫です。

3. 全体の回転と方位文字の回転を「リンク」ビヘイビアで連動させる


 磁針とその四方にある方位文字を一緒に回転させた時に、その回転に連動して各方位文字が正しい向きになるように逆方向に回転させます。使用するビヘイビアはパラメータの中にある「リンク」です。二つのオブジェクト間のパラメータを連動させるものです。「リンク」ビヘイビアを一つの文字に適用した後に、ソースとなる回転対象グループをドラッグして指定します。さらに、たくさんあるパラメータの何をリンクさせるか指定します。今回は情報・変形・回転・Zになります。

「リンク」ビヘイビアで方位文字の回転を制御

ここまでの状態で回転対象グループのインスペクタを開き、情報・変形・回転のパラメータを変えてみてください。磁針と方位文字が回転するのがわかります。ここで方位文字の向きを見ると、狙いとは反対の方向に回転しています。

方位文字の回転が意図したものと異なる

回転の向きを逆にするために使用するビヘイビアは、パラメータの中の「反対」です。これを先ほどの文字に適用し、対象になるパラメータを「リンク」と同じ情報・変形・回転・Zに指定すると、文字が正しい向きに変わりました。

文字の回転の向きを「反対」にしてやると正しい向きになる

この「リンク」と「反対」のビヘイビアを他の文字にもそのままコピーします。これで四つの方位文字は回転対象グループがどんなに回転しても、正しい向きを保ってくれます。

4. FCPXに公開するパラメータを選択


 FCPXテンプレートの便利なところは、パラメータを活用することによって一つのテンプレートで実に色々なことが実現できることです。今回FCPX側に公開するパラメータは多くはありません。磁針の回転角度と外枠の不透明度の二つだけです。

磁針の回転角度と外枠の不透明度を公開する

正しく公開されているかどうかは、レイヤリストの一番上にある「プロジェクト」を選択してから、インスペクタ>プロジェクトを開くと表示されます。公開パラメータのタイトルは自由に変えられますので、FCPX側で使用する際にわかりやすいものにしておきましょう。今回は不透明度の前に「外枠」をつけました。

公開されたパラメータを確認

ここでパラメータの値を変えてやれば、テンプレートとしての動きをテストすることができます。さらに、ここの値がFCPX側での初期値として扱われますので、最もよく利用する値にセットしておきます。

テストと初期値の設定が可能

5. 公開を選んでFCPX側で使用できるようにする


 最後に適当なカテゴリとテンプレート名を指定して保存してやれば、FCPX側のテンプレートとして認識されるようになります。他のテンプレート同様、タイムラインの必要な部分にドラッグして、継続時間を調整すれば使用できます。あとはインスペクタで大きさ、位置、方位、外枠の透明度などを調整して完了です。これでGoogle Earth Proのツアー動画に方位磁石を表示することができます。単純なジェネレータですが、そのほかにも色々使えそうです。


作成したFCPXテンプレートを公開中


 これをベースにしてもっと見栄えを良くしたり、方位文字を漢字に変えたりしていただけるよう、作成したFCPXテンプレートをGoogleドライブで公開中です。Motion5をお持ちでないFCPXユーザーも、ファイルをダウンロードすれば機能が利用できます。


2017年6月7日水曜日

高速道路沿いのサイクリングルート探検 館山道に沿ってアクアラインへ


 現在密かなマイブームになっているのが、高速道路に沿って新しいサイクリングルートを見つけることです。通常のルート開拓では川沿いの道を探すことが多く、快適な谷津道を見つけるのもほとんどが里山にある小川沿いです。しかし、同じアプローチを七年も続けていると新しい発見も少なくなってきます。新たな発見と出会いを求めて、時々高速道路に沿って初めてのルートを走るようになりました。東関東自動車道に沿って成田界隈までのルートを開拓した時には、細かいながらも立て続けに現れるアップダウンで脚が売り切れてしまいました。気候も良くなり、海を見たくなったため、館山自動車道に沿ったルートを開拓しながら、久しぶりに東京湾アクアラインまで走ることにしました。


蘇我ICまでは市街地の裏道を走行


 自宅のある船橋から千葉市内を抜けるまでは、高速道路の沿道にこだわらず、危険の少ないいつもの裏道を利用します。この区間の高速道路の側道は車の抜け道になっていて、交通量が多く、よっぽどのことがない限り使いたくありません。市街地から高速道路までのアプローチも含めて往復で使用したルートはこちらです。

(クリックすると動かせる地図が表示されます)

JR蘇我駅の横を抜けて、住宅地から京葉道路の蘇我ICにたどり着けます。


蘇我ICから市原SA手前までは走りやすい平坦路


 京葉道路は蘇我ICから先で館山自動車道に名前を変えます。蘇我ICを過ぎたあたりで、高速道路の東側の道を進むようにします。ここからしばらくの区間、西側は車の多い車道、東側は車両通行止めの側道が続きますので、自転車は東側を走らせてもらいます。

館山道東側は車両通行止めの道がまっすぐ伸びている

県道14号(茂原街道)や国道297号(大多喜街道)などの大きな車道や川を横切る際には、東側の側道をそのまま真っ直ぐに進めないため、西側の車道を走る必要がありますが、できるだけ短い距離で済むようにします。

館山道西側の車道は車が多い

館山道東側の側道は、遮断機も何もない小湊鉄道の踏切で可愛らしい電車を見たり、すぐ横に広がる田んぼから聞こえる鳥のさえずりを楽しみながら快適に走れる道です。昭和の森につながる村田川や高滝湖へ行ける養老川沿いのルートがあるため、この辺りまでは普段からよく走っている場所です。

遮断機も何もない小湊鉄道の踏切を通る


一筋縄ではいかない市原SAから先の高台ルート


 平坦な道が続いていた市原SA手前からさらに南下する際には、今までは少し山側に入った立野通りか、海側でJR内房線と並行している県道287号を利用していました。どちらもそこそこの交通量のある車道ですが、直線の多い走りやすい道で、時間を節約したい時には重宝します。市原SA手前で館山自動車道はいきなり丘陵地帯に入ります。今回初めて高速道路沿いに進んで見ました。

市原SA手前からいきなり丘陵地帯に入っていく館山自動車道

高速道路の側道も急に狭くなり、不安を感じながらも先に進むと、案の定その先は行き止まりになっていました。

こんな行き止まりに遭遇して進めなくなる

何度か行き止まりにぶつかりながら市原SAまでたどり着けましたが、その先の道が見つかりません。下り車線から上り車線のSAへも回ってみましたが、そちらも先へ続く道はなし。

市原SAまではたどり着けたが、その先の道がない

結局、高速道路から大きく外れた道を探しながら、また高速に戻るという大回りを余儀なくされました。途中いくつも谷筋を横切らなければならないため、結構なアップダウンが続きます。

25%もある激坂も登場(もちろん自転車を押して登りました)

期せずして林間の涼しげな道や、狭い谷間に沿った快適な谷津道を発見することもできました。まさに探検サイクリングです。

快適な谷津道もあった

やっと高速道路沿いの道を見つけて走り出しても、ちょと走ると行き止まりというのを何度も経験しながら、なんとか姉崎袖ヶ浦ICまで出ることができました。ここまでのルートはとてもお勧めできるようなものではありません。今後のブラッシュアップが必要です。

姉崎袖ヶ浦ICの案内を見たときはホッとした

姉崎袖ヶ浦ICで高速道路のすぐ横に道が現れました。高台の道で、車はすぐ下の切り通しを走っています。しばらくは快適な側道ツーリングが楽しめました。


細い道には小櫃川を渡る橋がない


 高速道路に沿って進んでいくと、小櫃川が見えてきました。高速道路は真っ直ぐに川を渡っていますが、側道に橋はかかっていません。直進するには大きく迂回が必要になりました。この先には圏央道・東京湾アクアライン連絡道に分岐する大きなインターチェンジがあります。インターチェンジの周辺を探検するのは次回にして、小櫃川に沿って東京湾アクアライン方面に進路を変えました。

静かな小櫃川、週末にもかかわらず人はほとんどいない

川の横にサイクリングロードらしい道はありません。田んぼの中の車道を使って、木更津の海を目指します。途中巨大なアンテナが目に飛び込んできました。敷地の入り口に「ニッポン放送」の文字があります。こんな場所に送信所があるんですね。知りませんでした。

ニッポン放送の木更津送信所

小櫃川と東京湾アクアライン連絡道の間の農道を走っていましたが、最後に川を渡る橋がありません。どうしても大きな車道を走る必要に迫られ、最後の気合をふり絞って車道の橋を通過しました。週末のアウトレット訪問客と思われる車がたくさん走っている道をガンガン走りました。木更津の海まではもう少しです。

農道に橋がないため、最後に車道を走行

前回自転車でアクアラインを見にきたのは六年も前のことです。まだ大規模なアウトレットモールができる前だったため、周辺の車も少なく、ゆったりと海を楽しんだのを覚えています。今回はモールの駐車場に向かう車がすごいスピードで走っていました。

東京湾アクアラインをここから眺めるのは六年ぶり

巨大な橋は相変わらず迫力があります。海ほたるPAに向かう車が見えますが、土曜日の午後のためかそれほど混雑はしていませんでした。すぐ横にある牛込海岸からは、海中に立ち並ぶ電柱の景色を撮影できました。何かのコマーシャルですっかり有名になった一コマです。

牛込海岸にある海上に立ち並ぶ電柱

帰路はJR内房線のすぐ横を走る県道287号で館山道の市原ICまで戻り、そこからは往路と同じルートを走りました。日が長くなってきましたので、休憩時間を含めて8時間以上もかけてのんびりと高速道路側道探検サイクリングを楽しんできました。普段の谷津道探検サイクリングではなかなか味わえない、行き止まりだらけのルートとなりましたが、狭い谷筋の谷津道などは高速道路沿いでなければなかなか出会えない地形だと思います。途中遠回りを強いられた区間は、まだまだ見直しが必要なため、繰り返し走って完成度を高めていきたい高速道路側道探検サイクリングでした。


Google Earth ProとGoPro映像でルート紹介動画


 写真と文章だけではなかなか探検サイクリングの醍醐味をお伝えできませんので、GPS軌跡ログを元にしてGoogle Earth Proが生成するツアー動画にGoProの実写映像を加えて、ルート紹介動画を作りました。当日の雰囲気がお伝えできれば幸いです。




2017年6月4日日曜日

準天頂衛星「みちびき」でいつもの谷津道探検サイクリングは変わるか


 準天頂衛星「みちびき」二号機の打ち上げ成功で、マスコミ各社の報道が加熱しています。『10メートル程度あったGPS測位誤差が数センチメートルにまで精度が向上する』とテレビや新聞に騒ぎ立てられると、否が応でも普段GPS機器を活用している一人として興味を持たざるを得ません。GPSと電子地図を使って自然豊かで安全・快適な自転車ルートを楽しむ「谷津道探検サイクリング」にのめり込んで早6〜7年経ちます。利用するGPS機器の誤差が数センチ単位になったら、この谷津道探検サイクリングがどのように変わるのか、「みちびき」の勉強も兼ねて考察してみました。

準天頂衛星「みちびき」 出典:内閣府ホームページより


今持っているGPS機器は「みちびき」に対応しているか


 現在マスコミ各社が騒いでいる「みちびき」は二号機です。初号機が打ち上げられたのが2010年ですから、随分と間が開いたものです。持っているGPS機器も古いものは2010年以前の物もありますので、「みちびき」に対応しているかどうか調べてみました。内閣府のホームページで紹介している「みちびき」対応製品のリストには2015年以降の分しかありません。

持っているハンディGPS機器、「みちびき」が受信可能なのはeTrex 30Jのみ

メーカーのホームページで「みちびき」対応を謳っているのはGarminのeTrex 30Jのみでした。登山用に長年使っていたeTrex SUMMIT HCの後継機として買い換えた機種ですので、内蔵のGPS受信機も新しいものが搭載されているようです。ハンディGPS以外ではiPhoneにもGPS受信機が内蔵されていますが、使用しているiPhone6は「みちびき」のサポートはありません。iPhone7からの対応でした。サイクリング時に使用しているEdge800Jも未対応で、1000Jや510Jからサポートとなっています。


新旧のGPS機器はどれほど精度が違う?


 「みちびき」が受信可能かどうかはメーカーの発表サイトをわざわざ探さなくても、各機器が表示する衛星受信状況画面を見れば一目瞭然です。どの機器にも受信中の衛星の番号と信号強度を表示する画面が備わっています。

メインで使っているEdge800JとeTrex 30Jの衛星受信状況画面

一目でEdge800Jは受信している衛星の個数が少ないことがわかります。これはEdge800Jが受信できるのは31機ある米国GPS衛星誤差修正情報を送ってくるDGPS衛星のみだからです。それに比べてeTrex 30Jの方は、米国GPSに加えて24機あるロシアのGLONASSも受信できます。ガーミン製品の場合、番号1から32までが米国GPS衛星、65から96番がGLONASSを表しています。右のeTrex 30J画面には日本の「みちびき」193番も出ています。ただし、地平線近くの低い場所にあり、衛星からの電波も弱いことが見て取れます。GPS衛星の情報や仕組みについてはこちらのサイト「トレッキングでのハンディGPSについて」の解説がわかりやすく、大変参考になりました。

 ここで注目すべきはGPS精度の表示です。これは複数の衛星から送られてくる電波の情報を基にして位置を割り出す際に、複数の計算結果の矛盾を誤差として表しています。プラスマイナス両側がありますので、実際にはこの値の2倍ほどの誤差が出ている可能性があります。受信している衛星の数に倍ほどの違いがありますが、Edge800JもeTrex 30Jもどちらも誤差は4mとなっています。受信状態が良い時には、米国GPS機しか受信できない古いGPS機器でも結構な精度があることがわかります。それに対してGPSが計算する高度の数値は大きく違っています。Edge800Jではなんと標高121メートルと出ています。自宅のある場所の標高は5メートル程度であることがわかっています。一戸建ての二階で計測していますので、eTrex 30Jが表示している高度8メートルというのが概ね正しいということがわかります。GPS機器は水平位置に比べて垂直位置の精度が極端に劣ります。登山用のハンディGPSに気圧高度計も内蔵しているものが多いのはそのためで、使用したeTrex 30Jも気圧計による高度補正がオンになっていました。


街中でGPS機器を利用する際の誤差


 衛星から飛んでくるGPS電波で位置を計算するには最低三つの衛星が受信できないといけません。よくある三角測量の技法と同じです。高度の計算にはさらにもう一つ必要になり、最低四つの衛星からの電波が使われます。ただしそれぞれの衛星からの電波には色々な誤差要因が含まれていますので、精度向上のためにはできるだけ多くの衛星が受信できる必要があります。上空で静止していないGPS衛星は時間とともに移動していきます。建物などに電波が遮られる地平線近くの衛星は測位には役に立たない存在です。高いビル群が立ち並ぶ市街地を移動している時には、受信できる衛星は上空の限られた範囲だけになってしまい、かなり精度が低下します。下の図は久しぶりに皇居前のパレスサイクリングを目指して、両側にビルが立ち並ぶ淡路町付近を自転車で走った時のGPS軌跡(赤線)です。実際には道路の左端に沿って(青線)まっすぐに走っていますが、かなり大きくふらついて測定されているのがわかります。

東京の淡路町付近を自転車で走行中に記録されたGPS位置

大きい場所では誤差が30メートル程度も出ています。都心部では一本横の道と間違えるほどの誤差になります。これに対して、周りに高い建物が一切無い皇居前では、同じEdge800Jの軌跡で走っている道路の車線まで読み取れるほどの精度が出ていることがわかります。

高い建物のない皇居前では走っている車線まで判別可能な精度

一番条件の良いところでは2メートルまでのGPS精度が表示されました。米国GPSのみしか受信できないEdge800Jでも、条件の悪いビルの間で誤差30メートル程度、条件の良い開けた場所では誤差2メートル程度で位置を把握できます。精度が高いに越したことはありませんが、この精度でも特に不満はありません。


「みちびき」では何がどう変わる?


 まず注意しなければならないのは、ニュースなどの『GPS誤差がセンチメートル単位まで小さくなる』という見出しです。先にも書きましたが、「みちびき」が打ち上げられたからといって今持っている機器が対応していなければ何も変わりません。「みちびき」からの電波が受信ができることが大前提です。

 「みちびき」の位置精度向上にはサブメータ級測位補強センチメータ級測位補強の二種類があります。センチメータ級測位補強を利用するためには、特殊なアンテナと受信機を使用した測位が必要です。今一般の人が利用しているスマホやハンディGPSで、センチメータ級測位補強が利用可能になる目処は立っていません。『数センチの誤差でGPSの位置情報が利用可能』というのは、当分の間一般の人には関係ないと思った方がいいのですが、マスコミの報道ではこの辺の説明が省かれています。

 サブメータ級測位補強を利用するには「みちびき」が送って来るDGPS(相対測位方式)信号を受信・処理できなければなりません。「みちびき」の電波受信には対応しているeTrex 30Jでも、「みちびき」からのDGPS信号受信には未対応とのこと。つまり1メートルを切るようなサブメータ級の測位は現在持っている機器では不可能なことがわかりました。次の買い替えまでお預けということになります。

 では一般のGPS利用者にとって「みちびき」で何が良くなるのでしょう。間違いなく言えることは、受信可能な衛星の数が増加することです。受信できる衛星の数が多いほど精度の向上が期待できます。さらに準天頂衛星である「みちびき」が複数機体制になる2018年度からは、衛星が日本の上空に滞在している間は、ほぼ真上に位置してくれるようになりますので、周りのビルに電波が遮られることが少なくなります。都心部のビル街をサイクリングしている間も、もう少し精度の向上が期待できそうです。

スマホアプリ「GNSS View」 場所と時間を指定して受信可能な衛星を表示できる

NECが提供しているスマホアプリのGNSS ViewGNSS Viewウェブサイトを使えば、位置と時刻を指定して利用可能な衛星を知ることができます。「みちびき」は二機目が打ち上げられたばかりで、サービス中なのは193番の一機目のみです。ある日のお昼頃に位置を確認してみたところ、ほとんど地平線すれすれでした。実際にeTrex 30Jで受信を試みましたが、受信できません。夕方もう一度チャレンジしてみたのが、前に掲示した受信状況画面です。天空の真上に来る時間を調べてみると深夜零時頃でした。これでは日中のアクティビティには使えませんね。2017年度中には四機体制になるようですので、そうなればいつでも良い状態で受信可能になるでしょう。


普段のGPS利用状況では「みちびき」は宝の持ち腐れ?


 ハンドルバーにGPSサイコン(Edge800J)を取り付けて走行していますが、バッテリーの消費が大きくなる地図表示はたまにしか使いません。細かなルートの検討は出発前や帰宅後にタブレットやパソコンの電子地図で行います。走行中は現在位置と大まかな進行方向を時々確認するのみですので、多少の誤差があっても問題にはなりません。

この取り付け位置でこの縮尺の地図を見ているのでGPS精度はあまり問題にならない

普段探検しながら走り回っている場所は下総台地の里山ばかりですから、道の数も少なく、10メートル程度の精度で現在位置が特定できればまず道に迷うことはありません。山の斜面を早い速度で下る際には、GPSが追従できず大きな誤差が生じることもしばしばですが、そもそも一本道ですから間違えようがありません。探検サイクリングの醍醐味としては、知らない道に迷い込んでから抜け出すまでのドキドキ感も重要な気がしてきました。数センチ単位の精度で自分の位置がわかってしまったら面白くないかもしれません(^ ^)

こんな場所ばかりでは高精度の「みちびき」は宝の持ち腐れになりそう

現在のEdge800Jも6年くらい使用していて、そろそろバッテリーの劣化が目立ってきました。内蔵バッテリーを交換して使い続けるか、最新モデルに買い換えるかはお財布との相談になりますが、「みちびき」の機能を利用するために最新機種に買い換えるという選択肢はなさそうだというのが、今回の考察の結果となりました。



『最小誤差6cm歩行者ナビ』東京五輪で実用化?


 日経新聞夕刊にこんな見出しを見つけました。スマホを使って街中から地下街まで歩行者を道案内するナビゲーションシステムの開発に政府主導で乗り出すとあります。街中では「みちびき」を活用して誤差6cmを目指し、衛星電波の届かない地下では必要な箇所に電波発信機を整備するそうです。さて、どんなものがどのくらいの価格で現れるのか今から楽しみです(^ ^)

(2017年6月23日追記)



「みちびき」が4機体制になる2018年度からは役立ちそう


 現在3機まで打ち上げられている「みちびき」ですが、2017年10月10日に4機目の打ち上げが決まりました。先にご紹介した衛星位置シミュレータでは、すでに4機体制になった時の状態を知ることができます。午前11時と午後11時の位置をシミュレータで表示させてみました。

「みちびき」が4機体制になった時には複数個がほぼ天頂付近に位置する

衛星番号193から195までの3衛星が準天頂軌道を周回する「みちびき」で、衛星番号199が静止している「みちびき」です。時間を変えると「みちびき」の193から195が入れ替わり立ち替わり次々に天頂(真上)にやってきます。さらに静止衛星軌道に打ち上げられる199が絶妙な位置に陣取っていて、周りを高いビルで囲まれている都心部でも複数個の「みちびき」からの電波が受信可能となります。サブメータ級測位補強やセンチメータ級測位補強などの最先端の機能のないGPS受信装置でも、この複数の「みちびき」電波が受信できるようになれば精度の向上が期待できます。4機体制での正式運用が始まるのは2018年4月以降のようですので、その頃にもう一度皇居前のパレスサイクリングに出かけて、ビルに囲まれた道路でどれだけ誤差が小さくなったか確認に行こうと思います。楽しみだな〜(^ ^)

(2017年8月30日追記)



2017年5月31日水曜日

快適自転車生活 ロードバイクにストップランプやウィンカーは必要?


 自作マニアを自任している親父ロードライダーです。秋葉原で面白い部品や小物を見つけると、当面の利用予定もなく買い込んでしまう悪い癖があります。両面テープで貼り付けられる薄型感圧センサー、乾電池二本で駆動できるマイコンPICAXE:ピカクスと読みます)、それに赤・黄二色の超高輝度LEDがありましたので、何か作れないか思案してみたところ、自転車用のブレーキ・ウィンカーランプに挑戦してみることにしました。


要不要を考えずに先に作ってしまう自作マニアの悪い癖


 数年前に大型バイクにリターンして以来、重量級のマシンを自在に操る楽しさにも目覚めてしまいました。オートバイではブレーキランプやウィンカーは法律で定められた灯火類ですので付いているのが当たり前ですが、ロードバイクにはありません。サイクリングロードや里山中心に走っている時にはほとんど必要性を感じませんが、たまに国道を使って都心部に出る際にはあったら便利だろうなと思う時があります。とりあえず持っている部品を組み合わせて、実用的なものが作れるかどうか挑戦したいという自作マニアの習性で試作してみたのがこれです。

試作したロードバイク用ブレーキ・ウィンカーランプ(ケースに組み込む前の段階)

取り付け場所についてはだいぶ悩みましたが、ブレーキ操作によりランプが点くこと、進行方向の前後からウィンカーが視認できることを優先してハンドルバーエンドに取り付けられるよう設計しました。

ハンドルバーエンドにこんなイメージで取り付ける

後方から赤色LEDのブレーキランプが見えるようにします。ウィンカーは自転車の前後から見えるよう二箇所に黄色LEDを取り付けます。車のランプ類にLEDが使われるようになって、超高輝度LEDの価格が安くなりました。日中でも十分に確認できるほどの明るさがあり、乾電池二本で動作させられます。ブレーキが操作されたことの検知は、ブレーキレバーの隙間に両面テープで貼り付けられる感圧センサーで行います。さらに、左右のウィンカーの点灯をブラケットカバーの中に隠した感圧センサーで操作します。

薄く、両面テープで貼り付け可能な感圧センサーでブレーキランプとウィンカーを操作

片側だけのブレーキ操作でも左右両方のブレーキランプを同時点灯させたり、片側ウィンカーの点滅中に反対側に変えた時に、点いていた方を停止し反対側を点滅させられるよう左右の制御ユニット間をRS232Cで通信させます。こうすることにより、プログラム次第でハザードランプのような点灯方法も可能になりました。左右のマイコン間を繋ぐ信号ケーブルや電源になる単四電池二本は全てハンドルバーの中に収めてしまいます。ハンドルバーの内径を測ってみると21mmありましたので、その太さに収まる電池ケースを探しましたが見つかりません。仕方がないのでハンドルバーに収納できる特殊仕様の電池ケースも3Dプリンターで自作しました。

横方向のサイズが21mmを切る自作電池ケース

さあ完成です。実際にハンドルバーに取り付けるケースを3Dプリンターで作る前に、バラック状態でテストしてみましたが、いい感じで機能しています。左右どちらかのブレーキレバーを少しでも握ると左右両方のブレーキランプが同時に点灯してくれます。ソフトウェアで制御していますから、消灯までの時間を長めにしました。短いブレーキ操作でも後方から確認しやすいように長めの時間点灯します。ウィンカーを点灯後に消し忘れるのは車やバイクでもよくあります。ウィンカーは点灯後、何も操作されなければ10秒後に自動で消灯するようにしました。あとは実際に利用しながら微調整を行えばいい段階まできましたが、ここでふと我に返ります。


ブレーキランプやウィンカーは本当に自転車で役に立つ?


 法律では自転車でも停止時や右左折時には合図が必要なことになっています。大抵はハンドサインで合図を行なっていますが、急ブレーキが必要な時などは片手を離す余裕がありません。また、ハンドサインは短時間で終わってしまいますが、少し長い間サインを出していた方が良さそうな場面もあります。信号待ち中に右左折の合図をしたい場合などです。これらのような状況では車と同様のブレーキランプやウィンカーが役に立ちそうです。

車の多い市街地を走る際にはブレーキランプやウィンカーは役に立ちそう

集団走行している際にも、前を走る自転車がブレーキ操作を開始したのかどうかが判断できれば後ろの人たちは心構えができます。ウィンカーなどの合図を使う使わないの判断は走る際の状況によると思いますが、安価でスマートに取付けられるランプであれば付いているに越したことはないと思うようになってきました。もちろん夜間はテールランプ(ポジションランプ、車幅灯)としての利用が可能ですので、無駄にはなりません。問題はその「安価でスマートに取り付け可能」ということです。


色々ある自転車用ブレーキランプ・ウィンカー


 色々な市販品やKickstarterなどで資金を募っているコンセプトモデルを見てみると、実にバラエティーに富んでいます。ハンドルに取り付けたスイッチから長いケーブルを経由してシートポストにあるランプ類をコントロールする単純なものや、ケーブルの代わりに無線で信号を送るもの、内蔵された加速度センサーが減速時の加速度を検知して自動でブレーキランプを点けるものなど様々です。それぞれの機能により取り付けられる場所にも違いが出てきます。取り付け場所を選ぶ際に考慮が必要な技術的なポイントは、
  • ウィンカー操作は何処でどのように行うか?
  • ブレーキの検知方法は?
  • 電力をどのように供給するか?
という三点かと思います。もちろん見易さも重要ですので、技術的な課題と同時に考慮して決めます。センサーや操作ボタンとランプを無線で繋ぐ方法は、取り付け場所の自由度が一気に増しますが、無線デバイスが高価でバッテリーの持ち時間も短くなってしまいます。ランプやセンサー・スイッチ類が近い場所に設置できるハンドルバーエンドを今回選んだのはそのためです。

ブレーキ(テール)ランプとウィンカーの取付け位置候補

さらに注意が必要なのは、車やオートバイのブレーキランプはドライバーがブレーキ操作を開始したことを後続車に知らせる役目を果たしていることです。決して速度が落ちたことを知らせているわけではありません。加速度センサーを使って明るさを増減させる自転車用テールランプが売られ始めましたが、これは決してブレーキランプと呼んではいけません。何故なら、このランプが点灯した時には既に減速が始まっていますし、ブレーキ操作をしたからといって必ず点灯する保証はないからです。今回使用したブレーキレバーに感圧センサーを貼り付ける方法では、レバーの動きがまだ遊びの段階でランプを点灯させることができます。


加速度センサーを使った試作品で実感した限界


 三軸加速度センサーの値段が下がり、これを使って自動ブレーキランプを実現できないだろうかと開発に取り組んだことがあります。

加速度センサー式ブレーキランプ試作一号機(左)・二号機(右)

初めて使うデバイスであったこともありますが、走行時の振動からくる測定値のノイズや坂道での重力の影響排除などかなり難しい処理が必要になりました。試行錯誤を繰り返して、なんとか減速時の進行方向へのマイナス加速度を見極めるところまでできましたが、実際の走行試験ではどうしてもブレーキ操作開始からランプ点灯までタイムラグが出ます。

実際の走行中にGoProで撮影しながら試作品のテストを繰り返し実施

判断のためのパラメータや加速度計算のロジックなどを色々変えながら、実走行テストを繰り返して得られた結論は「加速度センサーで得られた数値からブレーキ操作の開始を検知することは困難」というものでした。ブレーキ操作の結果として減速が始まったことを検知するのが精一杯という結論です。デバイスや回路設計の専門家が行えばもっと違った結果になるのかもしれませんが、そもそも時間軸で考えてみれば当たり前の結果に思えてきました。結局この試作品は、「自動で注意喚起を促すことができるテールランプ」という位置付けになっています。いっそのこと、ブレーキレバー全体に感圧センサーを貼り付けて、ブレーキに力を入れ始めたらランプが点くようにした方が、よほど本来のブレーキランプらしい動作をするように思えてきました。


試作品が完成して満足してしまう自作マニアの悪い癖


 実は、完成したブレーキ・ウィンカーランプはまだ自転車に装着されていません。ハンドルバー内の配線やブレーキレバーに感圧センサーを貼り付けるのに、バーテープを剥がしてやる必要があるためです。次回のバーテープの交換の際に組み込んでみようと思っていますが、これって目標であった「スマートに取り付けられる」のとは一線を画しています。自作マニアを自他共に認めてもらえるのはまだまだのようです。精進を続けたいと思います。


2017年5月29日月曜日

実践テスト サンキュッパの4Kアクションカムは果たして使い物になるか


 雪山やオートバイ、サイクリングを楽しんでいるときの感動シーンを残したくてGoProなどのアクションカメラを複数台活用しています。GoProの人気が出てくるとすぐに類似品が市場に出回り始めます。中でも中国のSJCAMなどは高いコストパフォーマンスで一定の評価を得ているようですが、それでも一万円前後で売られていますので、気軽に試せる価格ではありません。さらに安価なSJCAMのコピー品も度々見かけるようになっていました。


秋葉原で3,980円の4Kアクションカメラを発見


 用事もないのに時々秋葉原をぶらついては掘り出し物を探しています。いつものパーツ屋を覗いたら、4Kという文字が輝くアクションカメラのパッケージを発見。何と税別3,980円の価格で、4K・30FPSまで撮れるカメラが売られていました。今使っているGoPro HERO3+ Black Editionでも4Kは15FPSまでしかサポートしていませんので、それ以上の性能です。見た目はSJCAMにそっくりですが、メーカーの名前は書いてありません。一瞬「偽物?」との不安がよぎりましたが、試して見たいという興味が勝りました。

4Kの文字が光る3,980円のアクションカメラ

外箱から取り出すと、しっかりとした(でもありませんでした:2017年5月30日追記)ハウジングに収まったカメラが出てきました。ハウジングのデザインもSJCAMにそっくりです。

SJCAMにそっくりなカメラ本体とハウジング

カメラ本体をハウジングから取り出してみると、アルミ面に細かい傷が複数見えます。やっぱり中華品質だとの思いを抱きながら付属品を取り出します。

小さな傷がたくさんついているカメラ本体

落下防止用のワイヤーや固定のためのタイラップも含めた、豊富なアクセサリーが出てきました。基本的にGoPro用と互換ですから、仮にカメラ本体が使い物にならなくてもアクセサリーを購入したと思えば諦めもつきます。

すごい種類のアクセサリーが同梱されてる

GoProの場合は別売品になっているアクセサリーもあり、それだけでこのカメラ価格を超えてしまいそうです。

ロールバーマウントやカメラ三脚マウント、ネイキッドフレームなどGoProでは別売品のものも付属

背面には2インチのカラー液晶がついていて、設定や撮影中のモニター、撮影後の再生に利用できます。これもGoProの一部モデルではオプションです。

2インチのカラー液晶がついている

正面から見たサイズはGoProと同じで、若干奥行きがあります。特筆すべきはめちゃめちゃ軽いこと。バッテリー込みで58gと外箱に書いてありました。振動の多い場所で使うカメラですから軽い方がいいのですが、中身がスカスカなのではとの疑念が湧きます。

ほぼGoProと同サイズ、背面にカラー液晶がついていてもかなり軽い

バッテリーは900mAhのSJCAM用とそっくりなものがついていました。これで90分の録画ができると書いてあります。

SJCAM用にそっくりなバッテリー、これで90分の録画が可能(だそうです)

以上、同梱品を確認した限りでは3,980円の商品とは思えない内容です。あとは果たして動くかどうかですね(^ ^)


液晶パネルでの設定やモニターはやっぱり便利


 先ずは付属のACアダプターで充電を行ってから、いよいよ緊張の電源投入です。奇怪なビープ音とともに、背面の液晶が明るくなりました。言語の設定が可能で、日本語も表示できます。意味不明な表現が一部に見られたため、英語モードで使用することにしました。


動画の解像度指定画面では4K/1080p/720pの三種類が選択できますが、フレームレート (FPS)を指定する場所がありません。どうもFPSは固定?のようです。謎は残りますが、4Kにセットしてテストを進めました。


写真(静止画)の解像度指定もできるようになっています。外箱には16MピクセルのCMOSセンサー使用と書いてありますが、なぜか設定画面では20Mピクセルの指定も可能でした。よくわかりませんが、とりあえず16Mでテストです。


撮影時に映像がモニターできると、とっても楽です。今まではカメラのセット時にスマホとWi-Fi接続してから画角を調整していましたが、液晶モニターがついていれば本体のみで一発で画角を決められます。これは一度使ってしまったら手放せないですね。


決して画質のいい液晶ではありませんが、本体だけで簡単にカメラの設定を行えますし、映像がモニターできるのは便利です。バッテリーの残量や録画モードの確認も撮影中に行えるため、失敗も少なくなりそうです。


実際に撮影してみて感じる「本当に4K?」の疑問


 晴れた日を選んで、格安4Kカメラを自転車にマウントしてテストしてきました。比較のために、いつも使用しているGoPro HERO3+ Black Editionでも同時に録画します。

格安4KカメラとGoProを同時に使って比較

下が格安4Kカメラで撮影した映像です。ホワイトバランスはAUTO設定ですが、青かぶりしていて、編集時に色調整が必要です。空や道路の明るいところに色の縞(バンディング)が現れてしまっています。樹木の葉などの細かい部分がはっきりしません。とても4Kの解像度があるようには思えない映像です。

格安4Kカメラで撮った映像

HD(1080p)で撮影しているGoProの映像と比較しても解像度では劣ります。価格差を考えれば比較するのがかわいそうなほどですが、それでも4Kを謳っている割には見た目の解像度は720p程度しかありません。

HDモードのGoPro映像と比較しても低い解像度

本当に4Kなのかとの疑問が消えず、できあがったファイルの情報を読み取って見ました。4K設定で録画しているはずなのに、なんと出来上がったファイルは横1920、縦1088ピクセルのHD解像度ではありませんか!!! そもそも1088って一体どういうサイズなんでしょう。規格では1080のはずですが.... 8ピクセル分はサービスでしょうか?


音声はモノラルで、サンプリング周波数8KHzです。電話程度の音ですから、音については期待できませんが、もともとアクションカメラの音はよくないので、ここは諦めます。動画ファイルのサイズからビットレートを逆算してみると、GoProのHDモードと同じ約20Mbpsになっていました。これだけのデータを使いながら、あの程度の画質ですから、画像センサーや処理がいかに貧弱かがわかります。


写真(静止画)の解像度も怪しい


 動画がこれだと写真もかなり怪しくなります。16Mピクセル解像度の設定で撮影した写真がこれです。案の定、横1920 x 縦1088のHD解像度で写真ファイルも出来上がっていました。

16M設定で撮影した写真のサイズは2M

これは設定可能な写真解像度の中で最低の2Mピクセル時のサイズです。2Mを超えるどの設定で撮影しても、出来上がる写真はこのサイズで一定でした。外箱には「16Mega Pixels CMOS Sensor」と表記されていますが、どう考えても2Mega(HDサイズ)のセンサーしか使っていないように思えてなりません。この基幹部品をケチれば相当原価が抑えられますから、考えられないことではありません。

箱に記されているスペックは一体どこへ


この格安4Kカメラの使い道を考えなくちゃ


 税別3,980円の格安カメラですから画質が良くないのは諦めもつきますが、デカデカとパッケージに表記されている4K解像度が、実際は使えないというのはどう考えても納得できません。16MのCMOSセンサー搭載で、設定メニューには20M(笑)までの高解像度モードがあるのに、どれを指定しても最低の2Mでしか写真が撮れないというのも、単なる不具合とは思えません。明らかに人為的なものを感じます。クレームをつけたら「ソフトのバグで、現在パッチを作成中」とか言い訳されそうですが、連絡先もわかりません。

 では、これを返品しに買った店舗に持って行くかといえば、往復の交通費が千円以上かかりますので多分行きません。全く動かないのなら別として、なんらかの活用方法を考えることにしました。


USBケーブルでパソコンに繋ぐと、Mass Storage/PC Camera/REC_modeの三つから選べます。PC CameraモードにすればWebカメラなどの用途に使えます。VGA解像度程度の使用目的であれば、過不足はないと思います。REC_modeを選べば、USBから給電しながら録画が続けられますので、ドライブレコーダーなどの活用方法が考えられます。

 SJCAMの外箱に書かれているスペックを真似して、中身は安い模倣品というのが実情だと思いますが、わざわざ設定メニューを偽装?してまで売り上げを伸ばそうという根性がすごいですね。さすが何でもありの中華製品です。かかわっている人々のエネルギーを感じてしまいます。スペックを偽ることは今の日本ではあってはならない犯罪行為でしょうが、伸び盛りでイケイケの国では当たり前に行われているんでしょうね、きっと。いろいろ考えるきっかけとなった3,980円でした。

 走行中の実写映像を含めて格安4Kアクションカムの紹介ビデオを作りました。よろしければ参考にしてください。




よく見るとハウジングの作りもいい加減だった


 見た目はGoProやSJCAMの純正品にそっくりのハウジングですが、よくよく見るとかなりいい加減なことが分かりました。カメラのレンズをカバーする部分は、映像に歪みが出ないよう精度の高いアクリルやガラス板を別部品として取り付ける構造になっているのが普通です。この部分までハジング本体と一緒に成型してしまうと、どうしても歪みが残ってしまいます。格安4Kカメラのハウジングにもネジ止めされたレンズカバーが付いていますので、すっかりそうなっていると信じ込んでいましたが、よくよくレンズ部を見ると歪んでいるのが分かりました。

レンズ保護部が別パーツで取り付けられているようなハウジングだが....

裏側から覗くとレンズ部分も含めた一体成形になっています。ネジ止めされている表の黒いカバーは単なる飾りでした。無くてもハウジングとしての機能は全く変わりません。光学系の機器とは思えない、いい加減な作りになっています。厚さも薄く、本当にこれで水深30メートルまで耐えられるのか不安です。

裏から見るとレンズ部も一体成形されている


GoProにもないMotion Detection機能は面白い


 設定メニューをいじっていたら「Motion Detection」という項目を見つけました。読んで字のごとく、画像センサーで動きを検知した場合に自動的に撮影を開始する機能です。この機能、GoProにはありませんがSJCAMには以前から備わっていたようです。


里山に持ち出して野生動物の撮影にも活躍しそうな機能です。カメラの周りに餌をまいて、野鳥が集まってくるのを撮影して見るのも楽しそうです。暇さえあれば居眠りしている愛犬の前にカメラを置いてみました。

怪訝な顔の愛犬の前に動き検知をオンにしてカメラを置いてみた

動き始めを検知してから録画が始まるまでに若干の時間がかかるようで、起き上がった瞬間は撮れませんでした。カメラの向きや距離を工夫してやらないと狙ったシーンを撮るのは難しそうです。日付と時間を映像に入れることもできますので、防犯カメラ的に利用することもできそうです。

Motion Detection機能で自動撮影してみた

動きを検知し撮影を開始してから20秒経つと自動停止します。設定メニューを探してみましたが、撮影時間の指定はありませんでした。いろいろ制限はありますが、3,980円の格安アクションカムの使い道が少しずつ見えてきました。

(2017年5月30日追記)



SACのAC600と全く同じ外箱だった


 後日、家電量販店のアクションカメラコーナーを覗いていたら、見覚えのあるパッケージを見つけました。使われている写真などが微妙に異なりますが、書かれている文字やデザインは今回つかまされた「嘘っぱち4Kカメラ」と全く同じです。商品名はSAC社のAC600となっていて、9,800円で売られていました。ハウジングや付属オプション類も非常に似ています。秋葉原で手に入れたサンキュッパのなんちゃって4Kカメラは、どうもSAC社の製品をパクったようです。

(2017年7月21日追記)