2017年11月11日土曜日

どんな高級FMチューナーも良い受信環境があってこそ


 ネットオーディオやCDなどのデジタル音源が身の回りに溢れかえっていますが、アナログ音源の典型であるFM放送がたまらなく好きです。ステレオ放送を実現するために、15KHzを超える帯域をバッサリと切り捨ててしまいますが、それでも温かみのある落ち着いた音を聞かせてくれます。FM放送で聴くN響のライブは今でもうっとりするような音を楽しめます。ただし、FM放送の持つポテンシャルを楽しむためには良質なFMチューナーを使用するとともに、良好なFM電波の受信環境を用意してやる必要があります。


最高級フルデジタルFM専用チューナーも受信環境が重要


 現在、FM放送を楽しむために使用しているチューナーはAccuphaseのT-1100です。5年ほど前に、気に入っていたソニーのST-S333ESXIIが故障してしまったため、泣く泣く買い換えたものです。当時、大手のオーディオメーカーにはハイエンドのFMチューナーのラインナップがなく、探し当てたのがAccuphaseのT-1100でした。価格が他のFMチューナーと一桁違う高級機です。電波を受信した後は、復調まで全てデジタル処理され、そのままPCMレコーダーに録音可能です。FM放送の音質を濁すマルチパスの計測や抑制機能も持っていますので、多少受信環境が悪い場合でも歪みの少ない音を楽しめます。

Accuphase T-1100はマルチパスの量をメーター表示し、低減させる機能を持つ

マルチパス低減が可能なフルデジタル処理の高級FMチューナーでも、電波そのものが弱ければSN比の悪化につながりますし、強い近接波や高調波の影響があれば音は歪みます。あくまでもFM放送はアナログですので、クリーンなFM電波を受信できる環境が重要です。ソニーのFMチューナー時代から長年FM波の受信環境について試行錯誤を続けてきました。チューナーがよりハイグレードになりましたが、その性能を発揮できるのは改善を積み重ねてきたFMの受信環境のおかげだと感じています。


ケーブルテレビのFM再送信サービスを利用


 現在の家に住み始めたのは、15年以上前です。まだテレビ放送はアナログの時代で、近くに東京電力の高圧送電網があったため、難視聴対策としてケーブルテレビ(J:COM)経由でテレビとFM電波が受信できました。もちろん費用は東京電力持ちです(^ ^) 現在はテレビ放送がデジタル化されたため、ゴーストなど高圧送電線による悪影響が出なくなったとの理由から東京電力の費用負担がなくなりましたが、ケーブルテレビはそのまま利用しています。東京スカイツリーから10数キロ程度しか離れていないため、簡単なアンテナでテレビの受信は可能ですが、複数のFM放送を良好に受信するために、ケーブルテレビ経由のままで受信しています。FM放送はテレビと違い、送信所が一箇所に集中してはいません。自分でFMアンテナを立てた場合、全てのFM放送局に対して理想的な向きにすることは不可能です。J:COM傘下に入る前のJCN基地局だった場所に行ってみると、複数のFM用八木アンテナがあちらこちらを向いて立ててあり、それぞれのFM送信所から最適な電波を受信していたことがわかります。J:COMになってからはFMアンテナ群は撤去されていましたが、別の場所で同様に受信されたFM波が加入者宅に届けられているものと思います。

J:COM船橋・習志野の基地局

実は、ローテーター(モーターでアンテナの向きを360度変えられるアマチュア無線用機器)を屋根の上に設置していますので、FMアンテナを追加し、受信するFM放送局に向けてアンテナの向きを変えようと思えばできるのですが、さすがに選局の度にアンテナをくるくると回すのは大げさなのでやってませんσ(^_^;)


理想のFM受信環境を求めて試行錯誤


 今の家に越してきた時に利用していたFMチューナーはSONYのST-S333ESXIIです。29年も前に購入したものですが、非常に素直な音が楽しめました。これで聞くNHKのクラシックと東京FMのジェットストリームがお気に入りでした。

SONYのシンセサイザーチューナーST-S333ESXII

ケーブルテレビのFM再送信を利用していますが、初めから満足できる音が出ていたかというと、決してそうではありません。ケーブルテレビですから、テレビ電波や制御信号がFM波に重畳されて送られてきます。さらに、複数の分配器を経由してからFMチューナーに到達しますので、その度に電波が弱まります。当初のアンテナ配線は下図のような繋ぎ方でした。

ケーブルテレビの取り込み口からFMチューナーまでの配線(当初)

まず、5分配器で各部屋のコンセントに分配されます。FMチューナーはテレビと同じリビングに設置されていますので、リビングに一つしかないコンセントの電波を再度分配器で5等分します。この結果、各機器に入る電波はかなり弱くなりました。テレビは当時アナログでしたので、色合いが悪くなったりノイズが増えたりしたため、FMからUHFまで対応しているブースターを入れて増幅してから分配しました。FMチューナーのアンテナレベルはかなり上昇しましたが、これが相当な悪さをしていたことを後で知ることになります。定評のあるFMチューナーを使用していましたので、それなりにいい音は出ていましたが、時報やピアノにジュルジュルというマルチパス症状のような音が混じり、とっても不快でした。

対策その1:FMチューナーだけ別の部屋のコンセントから配線


 テレビやHDDレコーダーの映像と音はまあまあ満足できるものでしたが、FMの時報とピアノの音に大きな不満がありました。映像機器やオーディオ機器は全てリビングに集中していたため、一つのアンテナコンセントから全ての機器に接続していました。リビングと同じ一階にある和室のアンテナコンセントは空いています。同軸ケーブルが多少長くなってしまいますが、FMチューナーだけを和室から配線してみました。アンテナ配線は以下のようになりました。

FMチューナーのアンテナだけ分離して和室から配線

するとどうでしょう。ジルジュルという気になる音が大幅に減ったではありませんか。特に時報時に聞こえる音はほとんど気にならなくなりました。東京FMで聞くピアノの音にまだ少し残っているという程度です。かなり効果がありました。この配線状態でFMチューナーが高級機のT-1100に変わります。内蔵メーターを切り替えるとマルチパスの程度が読めるようになっています。メーターからは東京FMなどに結構なマルチパスがあることがわかりました。でも、J:COMでは複数のFMアンテナを用いて、それぞれの送信所の電波を拾っているはずです。そんなにマルチパスがあるなんておかしいと思っていました。

SONYが故障したため、AccuphaseのT-1100にチェンジ

対策その2:FM帯域のバンドパスフィルターを挿入


 アマチュア無線のアンテナ系パーツでお世話になっている大進無線のホームページを見ていたら、FM帯域(76~90MHz)だけを通過させるバンドパスフィルターを見つけました。ケーブルテレビ局から送られてくる電波には、FM波よりも周波数の高い強力なテレビ電波や、低い制御用の電波が含まれています。バンドパスフィルターがあれば、必要なFM波以外を減衰させることが可能ですので、物は試しにFMチューナーの前に入れてみました。

FMチューナーの前にバンドパスフィルターを入れてみた

すると、おかしいと思っていた東京FMなどのマルチパス・メーターの振れが大幅に小さくなりました。ほとんど振れない程度です。音の歪み感もだいぶ小さくなりました。ただし、まだピアノで多少の歪みを感じます。FMアンテナを使って受信した場合は、FM波以外の電波はそれほど大きいものではありませんが、ケーブルテレビの場合はFM波以外も強力に重畳されていますので、劇的な効果が生まれたのでしょう。

FMバンドパスフィルターはケーブルテレビでは抜群の効果

ここまで改善されてくると、まだほんの少し感じるピアノ曲の歪みがますます気になるようになりました。

対策その3:TV用のブースターを除去


 テレビの地上波も完全にデジタル放送となり、分配器で5等分してもブースター無しで綺麗な映像が映るようになりました。デジタルの場合、臨界点までは受信状態に全く変化が見られません。テレビのために使用していたブースターが不要となったため、撤去した途端、なんとFMチューナーの音に変化が現れました。

FMチューナーの系統とは別のテレビ用ブースターを外したらFMの音が良くなった

FMバンドパスフィルターでも取りきれなかったピアノの歪みが、気にならない程度まで小さくなりました。FMチューナーのアンテナ系統とは別の場所に入っているブースターですが、FMチューナーに何らかの悪さをしていたようです。広帯域のブースターはとかく色々な問題を引き起こすということはよく聞く話しです。アナログテレビ時代から長い間お世話になったブースターですが、これを機会に引退していただくことにしました。

FMからUHFまで増幅するブースター

対策その4:空いているテレビコンセントに終端抵抗設置


 ここまでで、気になっているジュルジュル音やピアノの歪み感は劇的に改善されましたので、もう終わりにしてもいいのですが、ここまできたら完璧を目指してみたくなります。分配器から各部屋につながっている同軸ケーブルの末端はオープンになったままです。伝送経路の末端がオープンのままだと、不要な反射が起こり伝送経路に定在波が生じます。本来、未使用のテレビコンセントは終端抵抗でクローズしておくべきなので、75オームの終端抵抗を各部屋の空きテレビコンセントに接続してみました。

空いているテレビコンセントに終端抵抗を接続

終端抵抗設置の効果ははっきり言ってわかりませんでした。高周波回路のインピーダンス的には、正しい設置方法となりましたが、FMチューナーの音に変化はみられなかったようです。まあ、終端抵抗は一個数十円程度ですから、コンセントのホコリ除けだと思えばいいので、そのままにしてありますσ(^_^;)

75オームの終端抵抗


足掛け2年のFM受信環境改善の努力が実った


 引っ越してきてからかなりの期間は何の対策もせず、時報の際のジュルジュルという音とピアノの歪みは仕方のないものだと諦めていました。Accuphaseの高級FMチューナーの導入前後に、足掛け2年をかけてFMの受信環境を少しずつ改善してきたおかげで、今では高品質なFM放送を楽しめています。少し前に、壊れて一度は捨てようと思ったソニーのST-S333ESXIIが復活し、東京FMのジェットストリームを長年慣れ親しんだ音で楽しめるようになりました。古いFMチューナーの音も、決して最新式のフルデジタルチューナーに引けを取らないと感じられるのは、良好な受信環境が整っているおかげです。やったね(^ ^)/

受信環境が良ければ29年も前に購入した古いFMチューナーの音も十分に楽しめる



複数のFMアンテナを構えたケーブルテレビ基地局発見


 後日、用事があって埼玉県富士見市を歩いていたら、J:COM東上のビルを見つけました。自宅近くのJ:COM船橋・習志野では見られなかったのですが、ビルの屋上に複数のFMアンテナ群を発見。数えてみると5本もの5エレ八木アンテナが建っています。それぞれがバラバラの方向を向いていますので、再送信サービスをしているFM放送局に向けられているのでしょう。

J:COM東上の屋上に建てられた5本のFMアンテナ

それぞれのFM局に向けて最適化されたアンテナで受信された電波を利用できますので、ケーブルテレビでのFM受信環境はいいはずですね。自宅の屋根にこんなにたくさんのアンテナを載せるわけにもいきませんから、普通はメインで利用するFM局を選んでアンテナを固定します。するとそれ以外のFM局はどうしてもベストな向きからずれてしまいます。まあ、よく利用するのは1・2局しかありませんから、あまり問題はないかもしれませんねσ(^_^;)

(2017年11月24日追記)



2 件のコメント:

  1. 室外アンテナの設置が困難でずいぶん前にFM受信をあきらめていました。が、貴ブログにいきつき、大変!参考にさせていただきました。これでFMが聴ける!いい音で!となりそうです。バンドパスフィルターとは初めておめにかかる代物です。アマチュア無線をされているからこその発想なのでしょうか。
    ところで分電器からFMチューナーのケーブルは何を使用しておられますか。当方、これらに関しましてはほとんど無知の世界です。同軸型の○○ウォームとかさっぱりですので、お手すきのときにでもご教授ください、よろしくお願いいたします。なおJ:COMケーブルTVで集合住宅です。
    東京都調布市 海江田

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    1. 最近のTV用の同軸ケーブルなら何でも大丈夫だと思いますが、
      当方は5CFBという規格のものを使っています。
      5が太さCがインピーダンス(75オーム)FBは低損失型
      5C2Vだと同じ太さでも内部の構造が違いFBより損失が大きくなります。

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