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2017年4月15日土曜日

小江戸川越に復活した日本酒「鏡山」を初体験


 いつもオートバイで千葉県の酒蔵を巡っていますが、今回は用事で出かけた埼玉県で見つけた新しい酒蔵のご紹介です。埼玉県川越市の近くに住んでいたのは30年も前のことになります。当時は買い物には東京へ、観光するには秩父などのもっと郊外へ出かけていて、川越市内を歩きまわることはほとんどありませんでした。記憶にあるのは、厄払いのために神社へお参りしたことくらいです。


蔵造りの街で有名な小江戸川越を初めて歩いてみた


 ここのところ佐原や川越などの小江戸と呼ばれる古い街並みが人気のようです。時々見ている「週刊バイクTV」でも川越の街歩きをやっていました。綺麗に整備された蔵造りの家々が並び、確かに小江戸と呼びたくなる風情を漂わせています。近くに住んでいた30年以上も前の記憶からは想像もつかないくらいの人気が出ているようです。東武東上線の川越駅から歩き始めてみるといきなり驚きました。平日の昼間なのにすごい人出です。蔵造りの建物が並ぶ中心地までは15分ほど商店街を歩きますが、まっすぐ進めないほどの賑わいでした。

蔵造りの建物が並ぶ小江戸川越

外国人観光客が大挙して歩き回っています。川越名物の芋を使った菓子やアイスクリームなどが飛ぶように売れていました。有名な「時の鐘」の櫓前では自撮りをしている観光客で溢れています。

街の中心部にある「時の鐘」


酒蔵を改装した産業観光館で「鏡山」を試飲


 川越で明治8年に創業した鏡山酒造は平成12年に蔵を閉じました。三つあった酒蔵が改装され、現在は土産物店やレストランになっています。

旧鏡山酒造があった場所が産業観光館「小江戸蔵里」になっている

この蔵の一角に「鏡山」の売店がありました。お店の人にお話しを伺うと、地元川越の地酒復活の願いが叶って、平成19年に小江戸鏡山酒造が創業し、「鏡山」銘柄の日本酒が再び出荷されるようになったそうです。

「小江戸蔵里」内にある小江戸鏡山酒造の売店

この売店、有料で試飲ができます。ずらりと並ぶカウンターの「鏡山」の中から、出荷されたばかりの純米おりがらみと特別純米無濾過生原酒雄町を試して見ました。どちらも優しい味わいです。アルコール度数の高い無濾過生原酒も飲みやすく、グイグイいけます。

先ずできたばかりのおりがらみと無濾過生原酒を試飲

続いて、純米吟醸も飲んで見ました。吟醸香はそれほど強くはありませんが、上品な優しい味です。「鏡山」三種を試して見ての感想は『どれも飲みやすい』というものでした。

続いて純米吟醸も一杯


醤油蔵の一角を借りて酒造りをしている小江戸鏡山酒造


 「鏡山」復活のために立ち上がった若い蔵人たちに力を貸したのが同じ川越の松本醤油。現在は醤油蔵の一部と水源を借りて日本酒の製造を行っているとのことです。残念ながら訪問した日は醤油蔵の方は見学可能でしたが、日本酒の方はできませんでした。

松本醤油内にあるカフェ

この平成生まれの新しい酒蔵は、日本酒の製造方法にも強いこだわりを持って始めたようです。酒蔵を紹介している記事には次のように書かれていました。
  • 品質第一の少量仕込
  • 麹は箱麹・蓋麹(少量づつ手作業で行う麹造り)のみ使用
  • 醪(もろみ)は袋による上槽
  • 火入れの際は「瓶火入れ」
  • 純米酒以上の特定名称酒
どうりで売店に並んでいる商品の平均価格が高いわけです。何石の出荷量なのかわかりませんが、近くの飲み屋でもなかなかお目にかかれない銘柄ですので、かなり限定された販売ルートなのでしょう。川越で唯一の酒蔵復活を成し遂げた地元の若い人たちが手作業で造る「鏡山」、ここの酒はどんどん進化していきそうな予感がしました。いつも巡っている千葉の酒も旨いですが、日本にはまだまだ飲んで見たい酒、訪ねて見たい酒蔵がたくさんありそうです。



「鏡山」純米も試してみました


 後日、再び酒蔵を訪れる機会があり「鏡山」の純米酒を手に入れました。武州さけ武蔵という酒米で仕込まれています。肩ラベルには「槽絞り」、「瓶火入」と書かれていて、手間をかけて作られた酒であることがわかります。

「鏡山」純米酒

常温で味わってみました。以前試飲した生原酒や純米吟醸と同様の、すっきりとした飲みやすい味がします。個人的にはもう少し芳醇感も欲しい気もしますが、燗酒が合うかもしれません。次回試してみたいと思います。

(2017年6月28日追記)


2017年4月4日火曜日

日本の酒情報館で全国各地の地酒を試飲三昧


 ライフワークにもなっている房総の酒蔵巡りも、しぼりたて新酒の時期が過ぎて一段落しているところです。地元千葉県の地酒の良さを知るためには、全国の酒の味も知っておく必要があります(^o^)/ 秋葉原に電子部品を買いに行った帰りに、虎ノ門にある「日本の酒情報館」を訪ねてみました。

NS(日本酒造)虎ノ門ビル一階にある日本の酒情報館


酒の情報満載の展示スペースを見るだけでも楽しめる


 この施設は、47都道府県毎にある酒造組合が加盟している日本酒造組合中央会が運営しています。NS虎ノ門ビル一階にありますが、NSは日本酒造の略でした。館内に入ると、26坪ほどのスペースにテーブルと椅子が置かれていて、くつろげるようになっています。壁にはたくさんの日本酒や焼酎の瓶が並び、面白そうな書籍や冊子類が置かれています。日本酒の醸造工程を説明したビデオが上映されていました。

壁にはたくさんの日本酒が並ぶ

反対側の壁には焼酎

酒以外にも、ぐい呑みや猪口などの酒器やキーホルダー、酒関連の書籍なども売られていました。お店の人が試飲用の酒を用意してくれるバーカウンターも設置されていて、酒好きにはたまらない空間となっています。

バーカウンターもある

オフィス街にこんなに素敵な場所があったなんて知りませんでした。サラリーマン時代にここを知っていたら、外回りの最後に立ち寄ってそのまま直帰を繰り返していたかもしれません(^ ^)


日本の酒情報館は全国の日本酒と焼酎・みりんが試飲できる


 日本全国の日本酒と焼酎、みりんを醸造している蔵元1,754軒が組合員(平成28年6月9日現在)のため、各蔵の製品を試飲したり、購入することができます。ただしあまりにも数が多く、一度に全てを取り扱えないため、試飲・販売している商品は1〜2ヶ月ごとに入れ替えられるそうです。まだ日は高いのですが、新酒生酒セット(300円)を試飲してみました。

先ずは新酒セットを試飲

飲んでみてそれぞれの味と香りの違いにびっくり。純米の末廣は端麗な味にうっすらとした香りですが、純米吟醸の萬代はグラスを顔に近付けただけで吟醸香が漂って来ます。口に含むと濃厚な味が広がり、さすが吟醸の新酒という感じ。有名な浦霞の純米吟醸もまた新酒の良さが出ていて楽しめました。

飲み比べが楽しめた新酒セット

当然これで終わるわけにはいきません(^ ^)ので、次は奮発して大吟醸セット(500円)を試してみました。秋田、岐阜、大分の大吟醸酒飲み比べです。なんと贅沢な!
大吟醸ですので立ち上る香りはどれも優劣つけられません。何より口に含んだ時の味の広がりが三種とも全く異なり、日本酒の奥深さを感じることができました。

大吟醸セットも試飲、旨〜い

これ以外にも飲み比べに適した三種類をまとめた試飲セットが用意されています。芋焼酎のセットなんてのもありましたが、少し道を外れそうでしたのでパス。

飲み比べお勧めの三種をまとめたセット類

最後に、少し毛色の変わった日本酒三種を個別にチョイスして試してみました。試飲可能な酒・焼酎・みりんの中から好きなものを選んで注文可能です。写真左から、
  • 山形県 和田酒造 「bitts!」
  • 山口県 酒井酒造 「ねね」
  • 福島県 仁井田本家 「自然酒」
です。スパークリング辛口と説明書きにある「bitts!」はかなりの強炭酸で、まるでサイダーのよう。スパークリング甘口の「ねね」はアルコール度数も5%と控えめで、酎ハイ代わりにも楽しめる最近流行りの日本酒でした。最後の「自然酒」は上品などぶろくという感じで、度数が16度あるため飲み過ぎ注意です。

少し変わった日本酒三種を選んで試飲

一杯30mlの小さな試飲グラスとはいえ、九杯飲めば270ml(一合半)です。まだ真昼間ですので、少し気分が良くなって来たところで打ち止めにしました。


蔵・商品で異なる日本酒を味わい尽くしたい


 この日試飲可能だったのは、日本酒54種・焼酎30種・リキュール9種・みりん2種でした。1,754の組合員のうち1,467が日本酒醸造の組合員ですので、この日の日本酒54種はほんの一部でしかありません。さらに一つの蔵元でも製法や材料、季節で色々な酒を造っていますので、それこそ数え切れないくらいの日本酒が出荷されています。千葉の酒蔵を足掛け三年かけて巡り、季節ごとに異なる蔵元の味を楽しんで来ましたが、それも県内35軒だけのことです。日本全国1,467軒のほんの一部でしかありません。この先、千葉県からさらに別の地域まで足を伸ばして蔵巡りをしたいと思わせてくれた「日本の酒情報館」での試飲三昧でした。

都会のオフィスビルの軒先に杉玉がかかっているのも面白い

平日の日中(10時〜18時)しか開館していないのが残念ではありますが、都心部に出かけた時には是非また立ち寄り、その時々の全国の地酒を試飲して帰りたいと思います。


2017年2月6日月曜日

新酒の時期に手に入る新鮮な酒粕を使って酒の肴作りにチャレンジ


 年末から春にかけては新酒の季節で、地元千葉県の酒蔵からも続々としぼりたての新酒が出荷されています。バイクで房総の酒蔵を巡り新酒を買い求めていますが、酒粕をおまけで頂戴することもしばしばあります。以前は、酒粕といえば甘酒くらいしか使い方が思いつかず、せっかくいただいても余らせてしまうこともありました。新酒を搾ったばかりの新鮮な酒粕ですので、利用の仕方を色々蔵の人にお聞きしながら試して見たら意外に簡単で美味しい酒の肴が作れました。


酒と同じで酒粕にも蔵元の個性がいっぱい詰まってる


 そもそも各酒蔵の個性と情熱がいっぱい詰まった醪(もろみ)を搾った後に残る酒粕です。酒と同じように蔵の個性が詰まっています。純米酒や吟醸酒など酒の種類毎に酒粕も区別されている場合がほとんどです。

蔵元の個性が詰まった酒粕

さらに搾りの程度や搾り方により、含まれる水分量や形状も異なっています。板状のものもあれば塊状のものもあり、利用方法も分かれます。

形や水分量などが異なるいろいろな酒粕がある

搾りかすとはいえアルコール分も結構含まれていて、そのまま使えば日本酒の香りをたっぷりと味わえます。各酒蔵の色々な酒粕を使って、そこの酒をより楽しめるような肴を作れれば、これからの酒蔵巡りももっと面白くなりそうです。


酒粕をそのままオーブンで焼くだけでもいける


 『焼いて醤油をつけただけでも旨いよ』とお聞きして試して見ました。板状の酒粕を剥がして、一枚をオーブンで表面に軽く焼き色がつくまで焼いただけです。わさび醤油をつけて食べて見たら、なかなかの味です。何しろ超簡単であっという間に一品完成です。これを肴にどぶろくを飲んでいると、本当の日本酒通になったような気分。

焼いた酒粕をわさび醤油で食す

この焼き酒粕を作る際に注意しなければならないのは、水分の多い酒粕を使うと焼いている時に崩れてくることです。オーブンの金網から落ちてしまうこともありますので、アルミホイルなどを敷いておかないと後の掃除が大変です。水分が少なめの板状の酒粕を使うのがコツのようです。

オーブンで酒粕を焼くだけ


ピザ生地代わりに板状酒粕を使ってみる


 オーブンで焼いて食べられるのならピザ生地の代わりにもなると思い、とろけるチーズと適当なトッピングを選んで焼いてみました。手元に塩昆布があったので、チーズの上にパラパラと蒔いただけ。熱々の酒粕の上に溶けたチーズ、塩昆布から滲み出た旨味と塩分が酒にぴったりです。

酒粕をピザ生地にして塩昆布をトッピング

トッピングが塩昆布だけというのも寂しいので、次はベーコンを加えてみました。ベーコンから出てきた油が加わり、さらにピザらしく完成。

トッピングにベーコンを追加、油が出て旨そう


豆腐やセロリの酒粕漬けにも挑戦


 オーブンで焼くだけの酒粕料理は食べたい時にすぐにできるのでお手軽ですが、酒粕の食べ方はまだまだありました。ちょっと時間がかかりますが、酒粕漬けにも挑戦してみました。先ずやってみたのがセロリの酒粕浅漬けです。小さく切ったセロリを塩もみしてから、酒で溶いた酒粕に数時間漬け込むだけです。日本酒を飲むときの箸休めに丁度良い味でした。

数時間で食べられるセロリの酒粕漬け

数日漬け込む必要がある豆腐の酒粕漬けにも挑戦。よく水を切った絹ごし豆腐を酒で溶いた酒粕で5日程度漬け込みます。程よく水分の抜けた頃に酒粕を取って豆腐を食べてみると、いつもの豆腐とはまるで違う味わいに。ちょっとチーズっぽい食感になっていました。

豆腐の酒粕漬け


酒粕で作るミルク甘酒が旨い


 水に溶いた酒粕に砂糖と少量のおろし生姜、塩を加えるとよくある酒粕の甘酒になりますが、水の代わりに牛乳を使ってみると濃厚でさらに美味しいミルク甘酒ができます。まずカップに酒粕をちぎって入れ、水か酒を少量加えて電子レンジで30秒ほど温めます。

酒粕適量をカップに入れて水(酒)を加え温める

温まったらよくかき混ぜて酒粕をペースト状にし、そこに牛乳と砂糖をお好みの量加えてよく混ぜます。お好みで生姜汁や塩を入れ味を調整。最後に電子レンジで温めれば完成です。

濃厚な味に仕上がる酒粕ミルク甘酒

寒い日には何杯でも行けてしまう味です。これなら簡単で、酒粕がいくらあっても使いきれる楽しみ方です。


トマトペーストの代わりに酒粕を使ったピザトーストも旨い


 ピザ生地代わりに板状の酒粕をそのまま使う方法をご紹介しましたが、酒粕に水分が多い場合は向きません。そんな時には食パンの上にペースト状にした酒粕を塗って、ピザトーストを作ってみましょう。ミルク甘酒を作るときの最初の手順で、酒粕をペースト状にします。作りすぎても大丈夫。残ったら牛乳を入れて甘酒にしてしまえばピザトーストとミルク甘酒がいっぺんに揃います。

食パンに好みの量の酒粕ペーストを塗る

その上にハムやベーコン、玉ねぎなど好きなトッピングをしてからとろけるチーズをのせ、オーブンで4〜5分焼くだけです。酒粕の持つ濃厚な味とチーズの塩分だけで、しっかりと味がついています。

この時のトッピングはサラミと塩昆布、あるもの何でもOK

新鮮な酒粕の旨味はトマトペーストにも負けない味がします。普段日本酒を飲む時にピザトーストを食べることは滅多にありませんが、この酒粕ペーストを使ったピザトーストなら何枚でも行けそうです。


 普段滅多に料理などしない酒好き親父が、思い立った時にできる手軽な酒粕レシピを試してみた記録です。粕漬け以外は酒を燗している間に完成もしくは下準備ができるものばかりですので、晩酌しようと思った時にサッサッと作って楽しめます。
 近所のスーパーで通年売っている酒粕と違い、せっかく酒蔵まで出向いて手に入れた出来立ての酒粕です。一緒に買ってきた日本酒をより美味しく楽しめるような肴作りに使いこなしたいものです。その蔵の酒粕で作った肴で楽しむその蔵のしぼりたて新酒。日本人に生まれて良かったと感じる瞬間です。


2017年2月2日木曜日

個性的な日本酒に出会える房総の酒蔵巡り


 千葉県に居を構えてからだいぶ経ちます。近所の酒屋でたまたま見つけた千葉の地酒を飲んでみたら、これが結構旨い。全国的に有名な地酒と比べても負けていません。住んでいる地元の日本酒に俄然興味が湧き、探して買い求めるようになりました。


千葉県酒造組合のホームページで情報収集


 千葉県内において清酒、焼酎乙類及びみりんを製造する酒類製造業者の団体として千葉県酒造組合が設立され、千葉市中央区に事務所を置いています。組合のホームページを見ると、平成28年4月時点で40社が組合員として加盟しています。そのうちの4社は千葉県内に工場を持っている全国規模の大手酒造メーカーです。宝酒造、合同酒精、ニッカウヰスキー、流山キッコーマンの4社で、千葉の地酒と呼べる日本酒の蔵元は残りの36社ということになります。うち一社は二つの蔵元が合併したもので、酒蔵としては別々の場所にあります。つまり千葉県酒造組合に加盟している地酒の酒蔵は37軒あることになります。

千葉県の地酒の蔵元36社、37軒

 いい歳をして大型バイクにリターンしてからというもの、房総ツーリングのついでに酒蔵に立ち寄っては近所の酒屋では手に入らない千葉の地酒を買って帰るようになりました。どうしても見つからない二つの酒蔵を除く35軒は全てバイクで訪問済みです。


季節毎に違う味が楽しめる房総の地酒


 バイクで房総の蔵元を巡り始めて足掛け三年、蔵元を度々訪れるようになると、季節毎に違った酒が作られていることがわかりました。一年を通して入手可能な商品もあれば、年末から初春に出荷されるしぼりたて新酒や暑い夏にも楽しめる夏吟醸、食欲の秋にぴったりのひやおろしなど、その季節でなければ手に入らない酒もあります。知れば知るほど日本酒の奥深さに魅了されていきました。

酒米の収穫から始まる日本酒の四季

1. 年末から春はしぼりたて新酒の季節


 秋に収穫した酒米を使って、気温が低くなってから仕込みを開始します。その年の10月ごろに仕込みを始め、11月には新酒を出荷する早い蔵もありますが、ほとんどの蔵元ではお正月需要に間に合うように12月末の出荷を目指して仕込みを行なっています。中には気温が一番低くなる1〜2月を待って仕込みを始める蔵もあり、その場合は新酒が楽しめるのは3月以降です。とにかく年末から春までは各蔵から出荷されるしぼりたて新酒を次から次に飲みまくりです。

しぼり方にも気を遣っている各蔵のしぼりたて新酒

できたての味を届けようと、火入れや濾過・加水などの処理を省いて瓶詰めされた酒はまさに「しぼりたて」新酒です。酒槽しぼりや袋(吊るし)しぼりなどと呼ばれる手間と時間のかかる搾りかたをしたものもあり、それぞれの味の違いを楽しめるのもこの時期ならでは。槽口(ふなぐち)と呼ばれるしぼり器の口から流れ出た酒を、そのまま瓶詰めした直詰め生酒などは、醪(もろみ)に残っている微炭酸がそのまま含まれていて、口に含むとピチピチとした新酒の勢いまで感じられます。

2. 低温でゆっくり醸した夏吟醸


 もともと吟醸酒はゆっくり時間をかけて醸造される日本酒ですが、出荷時期が夏場になるように低温のタンクで作られたものが夏吟醸です。暑い時期でも飲みやすいように低めのアルコール度数で、冷蔵庫で冷やして楽しめる夏向きの日本酒です。

枝豆をつまみに冷やして楽しむ夏吟醸は暑い日でも旨い

夏吟醸を知ってからはビールの消費量が減りました。酒蔵巡りをするようになる前は、夏場に日本酒など考えもしませんでしたが、冷蔵庫で瓶ごと冷やした夏吟醸は今やなくてはならない夏の友です。

3. 食欲の秋にはひやおろし(秋あがり)


 春先にできた酒を火入れしてからタンクで一夏貯蔵し、熟成が進んだ秋口に二度目の火入れをしないでそのまま瓶詰めされたものがひやおろしです。一度目の火入れもせずに生のまま熟成して出荷するものなど蔵によって色々なバリエーションがあり、秋あがりと呼ばれることもある一夏熟成の酒です。千葉県酒造組合では9月に解禁日を設けて一斉に出荷を開始しているようで、飲む方も一気に忙しくなります。昨年は14の蔵元の15種のひやおろし(秋あがり)を立て続けに楽しむことができました。

房総の各蔵元から一気に出てくるひやおろし(秋あがり)

実りの秋の食材を肴に、旨味の増したひやおろしを愉しむのは日本酒好きにはたまりません。冷やから燗までいける酒ですので、色々な料理にマッチします。各蔵元から一斉に出てくるため、飲み比べてみるのも一興です。

4. 燗酒推奨の日本酒も旨い


 タンク貯蔵の前後に火入れを行う通年商品は貯蔵中に熟成が進み、新酒の荒々しさが取れて旨味が増しています。冷やから熱燗まで色々な楽しみ方ができる酒ですが、蔵元で燗酒に合うようにして出荷される日本酒もありました。

寒い時期の燗酒は格別

バイクツーリングで冷え切った体に熱燗を流し込む瞬間は至福の時です。「燗酒純米」と書かれたものや燗酒コンテスト金賞のラベルがつけられたものまで、寒い時期には酒瓶を見ただけでよだれが出そうです。


こちらから出向かなければ出会えなかった房総の酒


 今は休業中なのか、どうしても見つからない2軒の蔵元を除く34軒を巡って思うのは、そこで作られている日本酒のほとんどは、こちらから出向かなければ出会うことがなかっただろうということです。中には近所のスーパーでよく見かける銘柄もありましたし、デパ地下などにある酒専門店でも複数の千葉の酒が置いてあります。しかし、日持ちのしない季節限定酒などはめったに見かけません。「初しぼり」と名付けられたその年の最初のしぼりたて新酒や強い発泡の続いている活性酒などは、鮮度を保つのが難しいためかめったに置いてありません。ちょうど出荷が始まる頃を見計らって、こちらから蔵元に出向いて買い求めるしかありません。

酒蔵で偶然出会った個性的な房総の酒

デパートなどで時々開かれる試飲会は蔵元の人が直接製品を紹介してくれる絶好の機会ですが、ある程度人のいる規模の蔵でないと実施するのは難しいようです。出荷量の少ない蔵の酒は、大半が地元の飲食店に卸されて都市部の酒屋まで流通してくることは稀です。やはりこちらから出向くのが一番で、できたばかりの個性的な酒に出会えた時の喜びはひとしおです。


酒蔵の置かれた状況は厳しい


 訪問した34社の蔵元の中で、販売店を併設し目立つ看板を出しているところはそう多くはありません。ほとんどは蔵の一部か母屋で販売もしてくれますが、看板もなくたどり着くのに苦労します。煙突が途中から切られている蔵元にお邪魔した時には、蔵のご夫婦が『後継ぎがいないため、製造は大手に委託している』とおっしゃっていました。観光バスも停められる大きな駐車場を用意して観光客を呼び込んでいる蔵元もあれば、今の代で終わりと考えている小さな蔵元まで色々です。

 そもそも酒の消費量が落ち込んでいる中で、日本酒の比率はどんどん下がっています。さらに二十代の若者が酒を飲まなくなっていますので、今後も消費量の拡大は期待薄です。販売店を併設しているような大きい蔵元は、直販やインターネット通販に力を入れたり海外への販路開拓を狙っているようですが、小規模な蔵元は将来どうなってしまうのでしょう。

出典:国税庁「酒のしおり」平成28年3月版

 でも希望は持ちたいものです。訪問した酒蔵の中には若い杜氏が新しい酒作りにチャレンジしているところもありました。ワイン酵母を使った日本酒作りにチャレンジしていたり、酒米の栽培から取り組んでいるところもあり、販売量の確保のみではない生き残りへの模索を感じます。寒空の下、バイクで酒を買いにくる珍しい客のためか、蔵の方々との会話が弾みます。旨そうな日本酒を前にして交わした会話が帰宅後の何よりの酒の肴になっています。


房総の酒蔵35軒を巡った記録動画


 バイクツーリングで房総の各地を巡り、ついでに酒蔵まで訪問してきた足掛け三年を動画にまとめました。どんな場所にどんな酒蔵があるのかがわかると思います。房総へドライブにお出かけの際には是非お立ち寄りを。旨い地酒が待ってますよ〜




2016年12月9日金曜日

燗酒の飲み頃温度を知るため手持ちの温度計を試してみた


 いつの間にか燗酒が旨い季節になりました。冷えた体に温めた日本酒を流し込めば、身も心も一遍に温めることができる、この時期の魔法の飲み物です。それぞれの酒毎にお勧めの温度があり、さらに温める方法にもいろいろあるため、それこそ千差万別の楽しみ方ができるのがこれからの燗酒です。日本酒の飲み頃温度は以下のように区分されています。

日本酒の飲み頃温度別の呼び名

今まで日本酒の燗酒は、ぞんざいに電子レンジでチンのみでしたが、バイクで房総の酒蔵を一軒一軒巡り、蔵元の話を聞きながら買い求めた地酒を燗するのに、さすがに電子レンジはためらいました。それまでほとんどやっていなかった湯煎による燗酒をするようになってから、温度の差による味の違いも少しずつ理解できてきたようです。


理科系としては正確な燗の温度を知りたい


 一杯目が熱ければ間違いなくあつ燗でしょうし、ちょっとぬるいなと感じればそれはぬる燗に違いありませんが、理科系人間としてはそれぞれの燗の温度を正確に測りたいと思っていました。調べてみるとお燗温度計という製品があるようです。千円から二千円前後の製品がたくさん見つかりました。燗酒の区分を目盛りにふってあるものもあれば、単に温度だけを表示するようになっているものもあります。要はキッチン用の簡易温度計を呼び名を変えて売っているだけでした。そうであれば、わざわざお燗用の温度計を買う必要もありません。普段使用している幾つかの温度計で燗酒の適温測定にチャレンジしてみました。


熱電対型温度計で日本酒の温度を直接測定


 子供の頃から慣れ親しんだ温度計といえば、ガラス管の中に赤い液体の入った温度計ですが、あの棒を入れて測定できる場所は限られます。また、測定を開始してからしばらく待たないと正確な温度を表示してくれません。冬用バイクグローブの保温性能を測定するために検討した熱電対型温度計の一つを使用して燗酒の温度を測定してみました。

応答速度の速い熱電対型温度計

ステンレス棒の中に入った熱電対により素早く温度を計測できます。だいたい1秒くらいで測定値は安定しました。試しに沸騰したヤカンのお湯にプローブ(測定棒)を入れてみたら、99.7度と出ましたので誤差は大きくはなさそうです。

湯煎したばかりの燗酒の温度を熱電対型温度計で測定

湯煎したばかりの燗酒の温度は、この測定器では53.4度を示していました。気をつけなければならないのは、縦長の徳利ですから熱くなった酒は上の方に移動し、下の方と温度差ができてしまうことです。徳利内部上下の温度差を測ってみると2度くらいの差がありました。


赤外線放射型温度計で徳利越しに温度測定


 非接触で温度が測定できる赤外線放射型温度計もよく利用しています。測定対象物の表面の放射率に測定値が左右されるため校正が必要ですが、離れた場所から目標の温度を簡単に計測できるため手放せない測定器です。

レーザーでポイントした周辺の温度を簡単に測定できる赤外線放射型温度計

先ほど熱電対型温度計で測定した燗酒をこの赤外線放射型温度計で測定してみると、50.8度を記録しました。この測定方法では中の酒の温度ではなく、その熱が伝わった徳利の外面の温度を測定していることになります。湯煎から取り出して時間が経っていますから、入れっぱなしの熱電対型の方は53.1度となっています。2.3度ほどの差で、非接触で測定ができました。

非接触で徳利の温度を測ると50.8度

どちらも熱燗の温度範囲です。これなら燗酒の目安を知るにはどちらの測定方法でも判断が可能だと思われます。


実際には徳利の底を触って判断


 単なる興味で燗酒の温度を測定してみましたが、毎回行うかといえば多分やりません。ヤカンのお湯が沸騰して、徳利を入れてから目安になる時間(2〜3分)が経過したら、徳利を取り出して湯をふき取り、徳利の底を触ります。底の温度が熱ければ十分熱燗になっていますし、それほどでもなければ上燗、ぬるく感じればぬる燗です。徳利の中で下の方が温まりにくい特性を利用して、全体の様子を想定するこの方法で燗酒の状態を知るのが最も合理的だと感じています。

湯煎であれば燗をしている最中の匂いも楽しめる

立ち上る香りも楽しみながら、温まるのを待つ楽しみは湯煎ならではです。電子レンジではこうはいきません。多少目標の温度から外れても、それはそれで新しい味わいを楽しむ機会と捉えて次の燗に期待を寄せます。ああ、飲んべえの夜はこうして更けて行きます。


2016年9月20日火曜日

房総酒蔵バイクツーリング番外編 旨い燗酒は湯煎に限る(?)


 台風がやってくるたびに少しずつ秋の気配が近づいてきます。冷やや常温で楽しんできた房総の地酒も、そろそろ燗が恋しいときも出てきました。9月9日のひやおろし解禁日を待って、バイクで買い求めてきた千葉のひやおろし(秋あがり)は三本になりました。

今秋最初に手に入れた千葉のひやおろし(秋あがり)

純米吟醸や純米酒を半年程蔵のタンクで寝かせた後、火入れせずに瓶詰めした酒ですので、冷やでも旨い酒ですが、その日の仕上げは燗酒がたまりません。バイクで房総の酒蔵巡りをするようになる前は、日本酒の燗はもっぱら電子レンジを使っていました。


お手軽だが温度管理の難しい電子レンジでの燗


 徳利に日本酒を満たして電子レンジでチンすれば、1〜2分で燗酒の出来上がりです。お手軽なため普通酒だろうが純米吟醸酒だろうが、日本酒の燗は全てこの方法でやっていました。電子レンジの特性上、徳利の細くなっている首の部分が、胴体の部分に比べて早く熱くなります。胴の部分がちょうど良い温度になるまで熱すると、首の部分は熱過ぎて持てなくなるばかりか、沸騰していることもあります。最初の一〜二杯は熱過ぎるのに、その後はぬるいなんてことも度々ありました。

お手軽だが、均一に温めることが難しい電子レンジ

これを避けるには、首の部分に電子レンジのマイクロ波が当たらないようにアルミホイルを巻きつければいいそうですが、やったことがありません。そもそもお手軽さが命の電子レンジなのに、いちいちアルミホイルを巻きつける気も起こりませんでした。

こうすれば電子レンジでも均一に温まる(らしい)


日本酒はいろいろな温度で楽しむ酒


 日本酒はその種類やその日の気候、果ては気分によって燗する温度を変えて飲むのが正しい飲み方です。香りも楽しめる吟醸酒を燗する場合は、香りが飛んでしまわないようにぬる燗が最適ですし、冬の寒い日に本醸造酒を楽しむならあつ燗が旨いと感じるでしょう。

日本酒を楽しむ適温

純米の秋あがりを燗するのであれば、ぬる燗から上燗(40〜45℃)がベストだと信じていますが、これを電子レンジで実現するのはかなり困難な作業になります。スイッチを入れてからこまめに温度をチェックするわけにもいきませんし、徳利から立ち上る湯気や香りを感じることもできません。今までは電子レンジのタイマー時間のみを頼りに日本酒を燗していました。


せっかく手に入れたひやおろしを一番美味しく燗したい


 バイクで自ら酒蔵を訪問し、蔵の人に話を聞きながら買い求めてきた房総の地酒です。飲み方も目一杯気を遣って楽しもうと考え、湯煎で燗をしてみました。ヤカンにお湯を沸かし、沸騰したら火を止めて酒を入れた徳利を浸けるだけです。湯の量は胴体の半分くらい浸かっていれば大丈夫。下から温まって行きますので、熱くなりやすい首の部分もじっくり温まります。熱湯に入れてから1〜2分で徳利から湯気が上がり始め、日本酒のいい香りが漂い始めます。首の部分を触って、少し暑いかなと感じるくらいで大丈夫。徳利を取り出して布巾で水気を拭きながら、胴体部分がしっかり温まっていることを確認します。

湯煎もやってみれば結構簡単

実際に何度かやってみると、ヤカンにお湯を沸かして火を止めてから2分程度で燗は出来上がりです。電子レンジと時間も手間もさほど変わりません。やかんのお湯はおかわりのためにそのままとっておけば、次は早く出来上がります。

 何より燗している最中に、立ち上る香りや湯気を直接確認できます。純米吟醸酒などでは香りが出始めたら、それでヤカンから徳利を取り出せばちょうど良いぬる燗の出来上がり。電子レンジではできないきめ細やかな燗付け作業が可能になります。

ただ温めればいいわけではない日本酒の燗

まるで温泉に浸かって気持ちよくなった日本酒をいただいているようで、飲んでいるこちらまでホッコリしてきます。電子レンジでチンも手軽ですが、それほど手間も変わらず、それでいて日本酒も喜んでくれている(ような)湯煎で楽しむ燗酒。日本人としての喜びを感じる瞬間です。

日本人として喜びを感じる場面



ハイテク?機器で熱燗の温度を測定


 湯煎で希望の温度に燗するのには多少の経験が必要でした。燗酒の飲み頃温度を知るために手持ちの温度計を試してみました。直接酒の中にセンサーを入れて正確に計測できる熱電対型電子温度計や、離れた場所から非接触で内部の温度を計れる赤外線放射型温度計を使って燗酒の温度を測定してみました。かなり正確に温度が測定できましたが、やはり手で触って一発で燗の具合がわかるようになりたいものです。

(2016年12月19日追記)